投資銀行の本格的DCF~エクセル付きで企業価値評価を解説6

DCFに必要なオペレーティングモデル作成方法のステップ4/12です。このステップは負債の計算方法について学びます。投資銀行で使うモデルでは、様々なシミュレーションに基づいて負債が柔軟に変動するように計算式をつくります。

ステップ4:負債の返済スケジュールと受取・支払利息を計算する(※計算した利息はまだISにはリンクさせない)

DCF法では短期借入金は極度枠という前提を置く

このモデルを構築するうえで、1つ前提として置いていることがあります。それは、短期借入金は一定の金額内で借りたり返済したりを繰り返すことのできる極度枠であるという前提です。

モデルを組んで様々なケースを想定してシミュレーションをする中で、将来の業績が悪化するケースを想定することもあると思います。業績が悪化して、現金が底をついてしまった場合、事業が継続できなくなってしまいます。しかし、モデルを組む場合には倒産することを前提にモデルを組むケースは基本的にはありません。当初数年は赤字が続く場合でも、その後黒字転換するという予想を立てないと、なんのために頑張ってモデルを組んでいるのかわからなくなってしまいますよね。

そこで、このモデルでは、現金がマイナスになった場合は短期借入金で賄うという数式を組んでいます。そうすることで、事業の継続を前提にしたモデルが組めるのです。実際にどのように数式を組んでいるかというのは、このステップおよびステップ7、ステップ8でみていきます。

負債の返済スケジュールと利息の計算は返済期限別に計算する

このモデルでは、負債はdebtというシートで全て計算しています。また、前提は全てinpシートに入力しています。上場会社の場合、アニュアルレポートを見ると、注記に銀行借入や社債について、借入金利と返済期限が記載されていますので、その情報を使うことになります。非上場会社の場合は、会社にヒアリングするか、それができない場合は自分で前提を置くことになります。

DCF-借入金計算

inpシートをみていただくと、銀行借入やCP、社債について、15個に分けて記載しているのがわかりますよね。もう少し簡略化することも考えたのですが、あえて簡略化せずにお見せしたほうが、実践的ではないかと考え、そのままにしております。debtシートは計算が136行目まで続いており、とても長い計算をしているように見えますが、1つ1つの返済スケジュールの計算は一緒ですので、モデルを見る際は適当に飛ばしてもらっても構いません。

DCF-負債計算の前提

負債計算時の4つの留意点

留意点1~短期借入金をBS実績値とリンクさせておく

ここでいくつか留意点を申し上げます。まずは、短期借入金についてです。短期借入金はBS上の現金がなくなった場合に借入を起こすという形にします。まだこの段階では、将来の現金がプラスなのかマイナスなのかはわかりませんが、debtシート10行目の期末残高は、BSの短期借入金の項目からリンクさせておきます。モデルが完成するまで、将来の期末残高はゼロのままですが、そのままで大丈夫です。

留意点2~短期借入金の未利用枠に対する手数料はコミットメントフィーとして計算する

短期借入金の計算の13行目と14行目に、コミットメントレートとコミットメントフィーという項目があります。これは、借入をしなかった未利用枠について、実際の借入金利よりは低い金利で、借入枠を確保したことへの手数料を支払うというものです。銀行からすると、ある企業のためにいつでも貸出できるように準備しておくのですから、貸出できなかった部分については機会コストが発生するので、少し手数料をもらいますよということですね。

留意点3~負債の残高は前期末と今期末の平均を使用する

全ての利息は、前期末と今期末の残高の平均に対して金利を乗じて計算しています。借入の返済は期中のいつ発生しているかわからないので、平均をとることでより実態に近い残高になるようにしています。

留意点4~利息と借入金元本の集計を行う

123行目以降で、借入残高と利息の集計をしています。この集計部分がBSとISにリンクしていきますので、必ずこの集計は作成するようにしてください。ただし、このステップのタイトルにカッコ書きしているように、リンクさせるのはもう少し後になってからです。

借入が複数あると、集計漏れをしやすくなるので、計算結果を眺めて極端な増減がないかを見る癖をつけるとミスを減らせます。

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コメント

  1. nana より:

    素晴らしいサイトをありがとうございます。
    負債項目に関して、リース債務がある場合はどのように扱うべきでしょうか。

    1. 壁道さん より:

      リース債務も銀行借入等と同様に扱い、償還スケジュールを作成して対応します。

  2. NM より:

    詳細な解説有難うございます。
    長期借入のフォームを完成させる際にコピーペーストすると参照するセルがずれてしまい、毎回手直しすると時間がかかってしまいます。
    効率的に該当する借入の利率や返済額を参照する方法はございますでしょうか。

    1. 壁道さん より:

      お世話になっております。残念ながら、コピーペースト等で参照間違いを起こさずに数式を完成させる方法はなく、地道に参照先を変更していくしかございません。

  3. S より:

    このようなテンプレートがあり、BS・PLを標準化して数値を入れ、微修正さえすれば実務でも事足りるのではないか?という疑問が生じたのですが、実際に会社ごとにある程度そのようなテンプレートが存在するのでしょうか?それともどの案件でもこのような資料をゼロから作っていて、テンプレートなど何も参考にせずにゼロから作れる能力(暗記力?)を持っていなくてはいけないのでしょうか?
    正直このようなものをゼロから何も見ずに作れるようになるには途方もない時間がかかるように思いました。

    1. 壁道さん より:

      私の知る限りでは投資銀行各社ともテンプレートを持っていますが、テンプレートの使い方としては、DCFなどの計算結果を統一された表やグラフにする部分での活用が主のケースが多く、DCF等の計算はゼロから作成することが多いと思います。モデリングを学習し始めた頃はゼロからオペレーティングモデルを作成することが大変なことのように思われるかもしれませんが、当ブログに書かれている手順に沿って繰り返し作成していくと、モデルの構造への理解が深まり、暗記せずともゼロから作成できるようになると思います。元々の会計やエクセル知識次第なので、何回繰り返せばよいかをお示しすることは難しいですが、数回繰り返すだけでもモデルへの理解が深まるとともに、作成スピードも大きく向上すると思います。
      なお、何も見ずにモデリングできるようになることは必ずしも必要ではなく、テンプレートを見ながらでも作成できればよいので、繰り返し学習することでモデルへの理解を深めていかれると良いと思います。

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