投資銀行の本格的DCF~エクセル付きで企業価値評価を解説5

DCFに必要なオペレーティングモデル作成方法のステップ3/12です。このステップはmixed accountを説明します。聞きなれない用語かもしれませんが、財務3表を作成する際には非常に重要な部分なので、詳しく説明します。

ステップ3:設備投資や資本等(mixed account)と運転資本を計算し、減価償却をISにリンクさせる

mixed accountを理解しよう

mixed accountとは、BSの項目の中で、営業CF・投資CF・財務CFの2つに影響を与える項目のことを指します。これだけ聞いても、何のことを指しているのかさっぱりわからないという方も多いと思いますので、実例を見ながら説明します。

ステップ7でキャッシュフロー計算書を構築する際、壁道式モデリングでは間接法を用いて作成していきます。間接法というのは、当期純利益をスタートにして、そこに様々な調整を掛けていくことでキャッシュフロー計算書を作るというものです。その調整というのは、とても簡単に(雑に)言うと、会計上の利益である純利益に、BSの各項目の前年比を調整していくことで、キャッシュの変動を計算するというものになります。例えば、純利益が100出たけど、売掛金(BS資産項目)が10増えていたら、100-10でキャッシュは90しか増えてないというように調整していくイメージです。その際、特定のBS項目についてはキャッシュフロー計算書の2つ(営業CFと投資CF、または営業CFと財務CF)に影響を与えます。これを、2つの要素がミックスされているという意味でmixed accountと呼んでいます。

mixed accountの代表的な5項目を覚えよう

それでは、具体的にmixed accountに該当するBS項目が何かを説明します。基本的には以下の5項目を覚えておけば十分です。

~mixed accountの代表的な項目~

  1. 有形固定資産:設備投資という投資CF項目と、減価償却という営業CF項目の2つがミックスされています
  2. 持分法による投資:持分法適用会社の利益という営業CF項目と、持分法適用会社からの配当という財務CF項目の2つがミックスされています(ただし、CF計算書上では、合算して1つの項目として営業CFに乗せることのほうが多いと思います)
  3. 無形固定資産:無形固定資産の追加という投資CF項目と減価償却という営業CF項目の2つがミックスされています
  4. 資本:純利益という営業CF項目と配当・新株発行・自社株買いという財務CF項目の2つがミックスされています
  5. 非支配株主持分:非支配持分利益という営業CF項目と、被支配株主への配当という財務CF項目の2つがミックスされています

mixed accountの計算方法は全て同じ

私のモデルでは、mixed accountはcalcというシートで計算しております。ちなみに、calcはcalculation(計算という意味)の略です。計算自体はシンプルで、有形固定資産であれば、期初残高に設備投資金額を足して、減価償却を引いて、期末残高を計算するという形で、他のmixed accountも全て同様です。このように全てのmixed accountを計算した後、計算した減価償却費をISにリンクさせます。リンクさせる場所は、ISシートの35行目です。ここでは、EBITDA(Earning Before Interest, Tax, Depreciation, and Amortization、利払い前・税引き前・減価償却前利益)を計算するための項目として使用しております。EBITDAを計算している理由はDCF法で現在価値を算出する際に必要になるからなので、この部分については別の回で説明します。

DCF-calcシートの説明

運転資本を計算する

運転資本の定義は「短期の営業資産-短期の営業負債」

運転資本には様々な定義があり、業種によっても変わってきますが、このモデルでは一般的な考え方である、「短期の営業資産-短期の営業負債」としております。単純な言い方をすると、現金および現金同等物を除いた流動資産から、短期金融負債(短期借入金など)を除いた流動負債をマイナスするという考え方です。

inpシートには、資産・負債・資本の各項目について予想値を設定しておりますが、これらの項目についても売上と売上原価のようにいくつかのケースを置くことで、より多面的な分析をすることも可能です。ただし、変動させる項目数が多くなりすぎると、計算結果を解釈しづらくなる面もあるので、あくまで財務に大きな影響を与える項目だけにしておいた方が無難です。

DCF運転資本

最後に運転資本の「前年引く今年」を計算しておくと後々便利

calcシートの40行目に、運転資本の前年からの変動額を計算しております。これは、キャッシュフロー計算書を作るときに少し便利になるので、calcシートでこの計算をしておくように癖付けしておきましょう。

計算は、前年引く今年なので、絶対に逆にはしないようにしてくださいね。これを間違うと、計算が大きく狂ってしまいます。

次のステップ

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コメント(質問への回答はご購入者に限定して対応しております)

  1. H.K より:

    いつもブログ参考にさせていただいております。
    素晴らしい教材をありがとうございます。

    内容に関して質問したいことがあり、もしよろしければお伺いできないかとコメントいたしました。

    オペレーティングモデルの「calc」シートの27行目の「配当」に関してですが、親会社所有者の株式の期末残高を算出する計算のところで、「配当」のセルに配当額全体が参照されているのはなぜなのでしょうか?

    私は素人なので理解しきれていない部分があるのかと思いますが、ここは(非支配持分に対する配当を控除した)「親会社」に対する配当のみが適用されるのではないかと思いました。

    もしよろしければ、教えていただけると幸いです。

    1. 壁道さん より:

      calcシート27行目の配当はISシート32行目を参照しています。ISシートの配当額は、親会社の1株当たり配当額に親会社の発行済株式数を乗じて算出しておりますので、この値は親会社に対する配当となっております。

      1. H.K より:

        ISシートの算出ロジックを確認不足でした。ご返信誠にありがとうございました。

  2. アナリスト修行中 より:

    壁の道の向こう側さん
    平素よりお世話になっております。

    「calc」シートの「持分法による投資」において、受取配当金を控除している理由についてご教示いただけると幸いです。

    ネットの記事を見ていると、「持分法適用会社から配当金を受け取った場合には、当該配当金に相当する額を投資の額から減額します(持基14項)」と書いてあるのですが、なぜそのような処理を行うのか理由が理解できておりません。

    お忙しいところ恐縮ですがよろしくお願い致します。

    1. 壁道さん より:

      持分法による投資の増減は、会社本体の株主資本の増減と同様と考えていただくと良いと思います。
      会社の株主資本は、当期利益の分だけ残高が増加し、配当を支払った分だけ減少します。配当分だけ株主資本が減少するのは、配当は株主への還元なので、会社から見ると資本が株主に流出することになるからです。
      持分法による投資の会計処理も同様で、当期利益×保有比率分だけ増加し、配当支払×保有比率(=受取配当金額)分だけ減少します。
      なお、配当分は持分法投資の残高からは減少しますが、受取配当金として当座預金残高がその分増加することになります。

  3. より:

    減価償却については無形やのれんがある場合は別途行う必要ありますよね?

    1. 壁道さん より:

      ご認識のとおりです。このモデルの企業はIFRS適用企業であるため、のれんは減価償却を行いませんが、無形資産がある場合は減価償却を計算してください。また、日本会計基準適用企業の場合はのれんの償却も計算する必要がございます。

  4. シニア修行僧 より:

    非常に参考になるブログ・モデルで、日々勉強進めております。ありがとうございます。
    1点質問で、このモデルでは棚卸資産の回転日数を、売上原価に対する期間として計算されているように見えます。売上・月商に対する期間の考えが一般的かと思ってきたのですが、投資銀行やファンドの考えでは売上原価を使うのでしょうか?

    1. 壁道さん より:

      お世話になっております。棚卸資産の回転期間は、一般的には売上原価に対する期間として計算いたします。その理由としては、棚卸資産は原価の積み上げで計算されており、売上の利益部分は加味されていないためです。もし棚卸資産の回転期間を売上原価ではなく売上高で計算することになると、分母が実態よりも大きくなるため、棚卸資産の回転期間が実態よりも短くなってしまいます。
      棚卸資産回転期間については、”棚卸資産回転期間”や”キャッシュコンバージョンサイクル”で検索すると様々な解説が出てきますので、ご参考にしていただければと思います。

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