DCFに必要なオペレーティングモデル作成方法のステップ11/12と12/12です。
ここでは、循環参照の不具合を一瞬で直すスイッチを導入して、DCFモデルを完成させます。
また、最後のステップとして、完成したモデルに間違いがないかのチェックを行います。
オペレーティングモデル作成方法
- ステップ1.エクセルの反復計算をオフにする
- ステップ2.損益計算書(IS)を構築する(ただし、減価償却、受取・支払利息は空欄のまま)
- ステップ3.設備投資や資本等(mixed account)と運転資本を計算し、減価償却をISにリンクさせる
- ステップ4.負債の返済スケジュールと受取・支払利息を計算する(※計算した利息はまだISにはリンクさせない)
- ステップ5.貸借対照表(BS)を構築する(ただし、現金と短期借入金は除く)
- ステップ6.BSの各項目をキャッシュフロー計算書(CF)の項目毎(営業、投資、財務)に分類する(ただし、現金と短期借入金は除く)
- ステップ7.CFを構築する
- ステップ8.CFで算出した現金/短期借入金をBSにリンクさせる(この時点でBSの資産と負債・資本がバランス)
- ステップ9.受取・支払利息をISにリンクさせる(これにより循環参照が発生します)
- ステップ10.エクセルの反復計算をオンにする
- ステップ11.循環参照のオン・オフができるスイッチを構築する
- ステップ12.構築したモデルをチェックする
循環参照のオン・オフができるスイッチを構築する
エクセルの循環参照は一度壊れると元に戻せない
反復計算をオンにして循環参照を計算式に組み込む際に、注意しなければならないエクセルの癖があります。
それは、循環参照が発生した計算式は、一度エラーが生じると元に戻せないというものです。
試しに、ISシートの売上収益セルのどれかに数字ではない文字を入力してみてください。
すると、多くのセルにエラーが出てしまいますよね。
このエラーを戻そうと思って、文字を入力したセルに元の数式を戻しても、一部のセルはエラーのままで計算ができなくなってしまっています。
たった1回タイプミスをしてしまうだけで取り返しのつかないエラーが生じてしまうというのは、モデルとしての不安定性に欠けるので、これに対処しなければなりません。
ちなみに、エラーを戻そうと思っても元に戻らないのは、以下の理由からです。
- 一度エラーが発生する
- 循環参照が生じている利息の値がエラー値になる
- 後から後から計算式を元に戻してもエラー値がぐるぐると反復計算されたままになる
一度エラーが発生すると、循環参照が生じている利息の値がエラー値になるため、後から後から計算式を元に戻してもエラー値がぐるぐると反復計算されたままになるからです。
循環参照スイッチを作れば、壊れたモデルを瞬時に修復できる
coverシートで循環参照の切り替えスイッチを作る
これに対処するための方法が、このステップで作る循環参照スイッチなのです。
まずはcoverシートを見てください。
循環参照スイッチというセルがあります。
その横にプルダウンで0か1を選択できるセルがあります。
ちなみに、このセルをcircと名付けています(circはcircular、英語で循環の意味)。
セルに名前を付けるには、シート左上のセル名が表示されている部分に名付けたい名前を上書きするだけです。
もし後でその名前を変更したい場合は、数式タブの中にある名前の管理から変更できます。
また、エクセルでプルダウンを作るには、データタブの下にあるデータの入力規則からできます。
ISシートで循環参照をオン/オフさせる数式を組み込む
ISシートの金融収益と金融費用のセルをみていただくと、debtシートからそのまま利息をリンクさせているのではなく、IF関数を使っています。
ここでは、もしcircセルが1の場合は利息を表示させて、circセルが0の場合はゼロを表示させるという数式になっています。
ステップ1で解説したように、循環参照が発生するのは利息自体が回り回って利息を変化させるという循環が発生することによるものです。
なので、この数式では、circが0の場合は金融収益と金融費用をゼロにするということで、この循環を断ち切っているのです。
この数式を入力した後、coverシートの循環参照スイッチを一度0にしてから、また1に戻してみてください。
そうすると、エラーになっていた数式が回復しているのがわかると思います。
この壊れた循環参照の直し方は、投資銀行の中では一般的だと思いますが、私は初めてこの方法を知った時、目から鱗が落ちるほど感動しました。
それまで自己流でバリュエーションスキルを学習していた時には、どの本にもサイトにも書かれておらず、一度壊れたモデルを修復するのに苦労していました。
しかし、この循環参照スイッチ(循環参照トグルとも呼ばれます)を知ってからは、モデルが壊れる心配をする必要がなくなりました。
私の下手なウェブ検索では、日本語ではこの方法を公開しているサイトは見当たらないので、地味な機能ですがとても貴重な情報だと思いますので、ぜひ覚えてみてください。
構築したモデルをチェックする
人間はミスをする生き物だということを常に意識してミスがないかを確認する
ステップ11まででモデルは完成しております。
しかし、何度も書いてますようにモデルは正確性が何より大事ですので、最後にモデルのエラーがないかをもう一度チェックしてください。
チェックの方法としては、設定したケースの値を大きく動かして、結果がエラーやおかしな値にならないかをチェックするのがよいと思います。
以上でオペレーティングモデル構築のステップは全て終了です。
次回以降は、オペレーティングモデルで予想した将来キャッシュフローを現在価値に割り引いて、企業価値を計算する方法を説明します。
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