投資銀行の本格的DCF~エクセル付きで企業価値評価を解説14

DCF法の現在価値計算ステップ1/5です。ここでは、企業価値を計算するためのキャッシュフローであるアンレバード・フリー・キャッシュフロー(FCF)の計算方法を解説します。FCFの計算には正しいEBITDAの理解が必要ですので、この定義も解説します。

ステップ1:アンレバード・フリー・キャッシュフロー(FCF)を計算する

EBITDAを正しく理解することで、正しいFCFが計算できる

FCFは、以下のとおりEBITDAに対していくつかの項目を足し引きして算出します。

DCF-FCF

ここで、EBITDAの定義について解説しておきます。というのも、DCF法におけるEBITDAの定義をきちんと理解しておかないと、重大な計算ミスにつながってしまうからです。

「EBITDA 定義」とネット検索すると、多くの検索結果がヒットします。ほとんどの定義は「税引前利益+支払利息+減価償却費=EBITDA」といった内容だと思います。この定義はEBITDAの一般的な定義としては間違っていません。正しいです。ただし、DCF法におけるEBITDAの定義としては不十分なのです。

DCFにおけるEBITDAは、以下の3つのCを全て満たす利益だけをカウントします。

~EBITDAの3つの条件(3つのC)~

  1. その会社の本業からの収益であること(=Core)
  2. その事業が継続していること(=Continuing)
  3. その事業を支配していること(=Controlled)

EBITDAの定義その1(Core)

EBITDAはその会社の本業の収益力だけを計算しますので、営業外収益に本業以外の収益が入っていたら、それはEBITDAには入れてはいけません。具体例としては、本業が不動産ではない会社が、遊休不動産を賃貸して得た収入が挙げられます。

なぜ本業以外の収益を考慮しないのかというと、DCFのステップ5に関連しますが、企業価値(EV)は企業の本業における価値を表し、そこに本業以外の事業や資産の価値を加えたり、負債を引いたりして株式価値を算出します。その際に、EVの計算に本業以外からの収益を考慮してしまうと、EVにも、ステップ5での株式価値の計算でも本業以外の資産価値を考慮してしまうので、ダブルカウントになってしまうのです。

また、他の理由としては、DCFで用いる割引率(WACC)は本業のみにしか使えないということがあげられます。小売業のWACCと不動産業のWACCは本来異なるのに、遊休不動産からの収益を小売業のWACCで割り引くことは正しい計算ではありませんよね。

EBITDAの定義その2(Continuing)

EBITDAは、その企業の将来の業績予想から企業の現在価値を算出するために使われます。なので、将来継続しない収益や費用はカウントしません。リストラ費用などの一時費用や、売却や清算することが決まった事業は、財務諸表に必ず記述されるのでそれらは除外しなければなりません。仮に一時費用を除外しない場合、EBITDAが本来よりも小さくなってしまい、結果として現在価値が過小評価されてしまいます。

EBITDAの定義その3(Controlled)

定義その1とも関連しますが、EBITDAはその会社自体が支配している本業しか考慮しません。なので、連結されていない関連会社(株式持分が20%以上かつ50%未満)や、投資(持分20%未満の投資)からの収益は除外します。支配していない会社には限定的な意思決定しか及ぼせませんので、関連会社から生じる収益はその企業の事業価値とは認識せず、ステップ5の株式価値への変換のところで考慮します。ただし、関連会社ではあるものの、実質的には本業であるという事情がある場合には、EBITDAに含むケースもあり得ますので、最終的には企業の実態に応じて判断することになります。

FCFの計算方法を正しく理解する

アンレバード・フリー・キャッシュフローの「アンレバード」とは「無借金状態」のこと

企業価値を計算する際、FCFでは無借金状態(=アンレバード)で計算します。なぜ無借金状態を前提にするかというと、DCFでは負債の比率はWACCに織り込むことで考慮するためです。WACCで負債を織り込むのに、FCFでも織り込んだらダブルカウントになるので、ここでは無借金状態を前提にするのです。

ちなみに、投資の世界では借金をして投資元本を増やすことをレバレッジをかけると表現します。企業も同様に、負債を借りることで、本来の元本である株式の価値以上に事業へ投資することになるので、借入のある企業はレバレッジを掛けた状態にあります。この借入のある状態を無借金の状態に戻すことをアンレバードと表現しています(アン=否定、レバード=レバレッジをかける)。

FCF計算プロセスの理屈を解説する

FCFの計算プロセスを見ると、減価償却を一度引いた後にまた足すという、一見すると意味の分からない計算をしていますよね。ここでは、なぜこのような計算をするとFCFが算出されるのかという理屈を説明します。

項目

解説

EBITDA

本業の営業キャッシュフローの近似値

-) 減価償却

減価償却は減税効果があるので、税額計算の前に一回控除

= EBIT

本業の課税利益

-) EBITに対する税金

本業に対する税金

= NOPAT

本業の税引後利益

+/-) Δ運転資本

CF計算と同様に、会計上の利益を現金の動きに変換する

+) 減価償却

NOPATをキャッシュフローに戻すため、非現金支出である減価償却を足し戻す

-) 設備投資

CF計算と同様に、会計上の利益を現金の動きに変換する

+/-) Δその他非流動資産

+/-) Δ繰延税金負債

+/-) Δその他非流動負債

= FCF

無借金状態のキャッシュフロー

キャッシュフロー(FCF)は何年先まで予測して計算すべきか

FCFの予測期間は、通常5~10年です。あまり長すぎると予測が困難になりますし、短すぎると急成長している会社の予測としては不十分になります。

FCFの予測期間以降は、安定成長状態を想定して、それほど高くない成長率(永久成長率)を使うことになりますので、事業を立ち上げて間もない企業や、当面高成長が見込まれる企業は10年に近い予測期間を置く方がよいですし、既に安定成長期に入っている企業であれば5年程度で十分と考えられます。

次のステップ

前のステップ

エクセルをダウンロードしてない方は、ダウンロードページからダウンロードしてください。

コメント(質問への回答はご購入者に限定して対応しております)

  1. 修行僧 より:

    壁の道の向こう側さん

    本稿でご説明いただいているFCFの導出ではCF計算時と同様に会計上の利益を現金の動きに変換する過程があるかと思いますが、CFを計算する際は「持分法で会計処理されている投資の増減分」を調整していたのに対し、今回は「設備投資」の金額をそのまま計算に入れているのはなぜでしょうか?

    1. 壁道さん より:

      ご質問は、CF計算では持分法利益の増減を調整していたのに対し、FCF計算では持分法利益の増減を調整しないことの理由ということでよろしいでしょうか?DCFの解説14に記載のとおり、FCFはEBITDAやEVと同様、企業の本業のみを考慮するため、支配していない事業(=持分法適用の関連会社)については原則計算に含めません。持分法投資の価値については、企業価値(EV)を計算した後、株式価値を導き出す際に調整することになります。この点については、DCF解説18を参照してください。なお、設備投資の金額については、CFでは投資キャッシュフローで考慮しており、FCFでも考慮しております。
      まだご不明な点があれば、コメント欄にご返信いただくか、お問い合わせフォームからご連絡いただければと思います。

  2. アナリスト修行中 より:

    壁の道の向こう側さん
    いつもお世話になっております。

    ExcelにてEBITDAを「事業利益(=売上収益-売上原価-販管費)」+「減価償却費及び償却費」と計算されていると思いますが、「事業利益」に「その他の営業収益」「その他の営業費用」を含める必要がない理由をお伺いしたいです。

    EBITDAの定義を考慮すると、「その他の営業収益」「その他の営業費用」がコア事業によるものではないからという事でしょうか?もしそうであれば、「その他の営業収益」「その他の営業費用」の元の中身はどのような項目であったのかもご教示頂けると幸いです。

    ご確認よろしくお願い申し上げます。

    1. 壁道さん より:

      おっしゃるとおり、その他の営業収益と費用はコア事業によるものではないためEBITDAには含めておりません。その他の営業収益をEBITDAに含めるかは有価証券報告書の注記を見てケースバイケースで判断していくことになりますが、このモデルのもとになっている企業(東証一部企業)のその他の営業収益には有形固定資産売却益と関係会社売却益、その他の営業費用には有形固定資産除却損と減損損失という一過性の項目が計上されています。EVとEBITDAの定義については、以下のリンクで先で解説しておりますので、まだご覧いただいていなければご参考にしてください。
      https://finance-rice-field.com/modeling-topic-mistake-in-ebitda-and-ev

      1. アナリスト修行中 より:

        ご回答頂きありがとうございました。
        今後ともよろしくお願い致します。

  3. aaa より:

    いつもお世話になっております。
    毎日拝見し、勉強させていただいております。
    DCFの計算上における、DTA及びDTLの取り扱いはどのようにするべきでしょうか。
    これまで当該項目はそれ自体はキャッシュを生むものではないとの考えからDCF法上の計算に含めておらず、もし含めるのであれば、取り扱い方及びその理由につきご教示いただけますと幸甚です。

    どうぞよろしくお願いいたします。

    1. 壁道さん より:

      被買収企業が買収前から有していた繰延税金資産・負債はDCF法上の計算においても考慮されます。キャッシュを生まないという理由でDCFの計算から外してしまうと、減価償却など他の非キャッシュ項目も計算する必要がなくなるように思われますが、それでは財務3表がバランスしなくなってしまいます。
      あるいは、質問されているDTA・DTLは買収に伴って発生するものを指していますでしょうか?その場合、新たに無形資産を認識する場合について、連結会計上の一時差異としてDTLを認識することになります。キャッシュを生むものではない項目であることを理由にDCF法の計算に含めていなかったとのことですが、この場合連結会計上そもそも無形資産を認識せずに全てのれんに計上するか、あるいは無形資産を認識しているにも関わらず税効果を適用しないという形になっていると思います。前者については、買収前にPPAを行わない場合は一旦全てのれんに計上して計算するというやり方も実務では行われておりますので問題ないと考えます。一方、後者の場合は、無形資産の償却もキャッシュを生まないという意味では同様なのに無形資産自体は認識するというちぐはぐな運用になってしまい、オペレーティングモデルとして不完全になると考えられます。

      1. aaa より:

        ご回答いただきありがとうございます。
        買収前、買収後想定のDTA,DTLの取り扱いに関して丁寧にご説明いただき誠にありがとうございました。
        追加で1点ご質問なのですが、買収前の想定でのDCF法において、DTAは運転資本に、DTLは別途NOPAT以降の調整項目として増減を調整するという認識に齟齬はございませんでしょうか。
        齟齬はございましたら別途ご教示いただけますと幸いです。

        どうぞよろしくお願いいたします。

        1. 壁道さん より:

          DTAは一般的な運転資本(=事業を営むための必要資金)の定義には合致しないため、別項目で調整した方がわかりやすいように思いますが、どちらでもDCFの計算結果には影響を与えないため、実態に即して運転資本に含めるかどうかをご判断されるということでよいと思います。

コメントを残す

*