投資銀行の本格的DCF~エクセル付きで企業価値評価を解説4

DCFに必要なオペレーティングモデル作成方法のステップ2/12です。このステップは損益計算書の作り方を説明します。DCFを計算するには、損益計算書は会社が発表している項目をそのまま使うのではなく、加工が必要です。また、将来予想の作り方も説明します。

ステップ2:損益計算書(IS)を構築する(ただし、減価償却、受取・支払利息は空欄のまま)

財務諸表の項目は統合・加工してシンプルにすることが重要

ステップ2は損益計算書の構築になります。今回のオペレーティングモデルは、とある日本の上場企業のデータをベースに一部加工して使用しております。

このISをご覧いただくと、上場企業のアニュアルレポート等に記載されている項目よりも項目数が簡素化され、少ない項目数にまとめられている(標準化)ことに気づくと思います。実際、私がこのモデルを作成するにあたっては、対象会社のアニュアルレポートに記載されている様式から、このエクセルの項目に分類しなおしております。このように表示項目を標準化することには、以下のメリットがあります。

~財務諸表の項目を標準化することのメリット~

  1. 見やすい
  2. 他社と比較したり、合算したりが容易にできる

DCF-損益計算書

M&Aシミュレーションでは2社の財務諸表の項目がバラバラだと大変

特に2番目の他社と比較しやすいというのが重要です。M&Aのシミュレーションを行う場合、2つの企業を統合した財務諸表を作成します。その際、2社の表示項目がバラバラだと統合作業が大変ですし、計算ミスの原因にもなります。なので、IS、BS、CFに使用する項目は標準的な項目にまとめておくほうが便利です。もし、標準化された項目よりも細分化して業績の予想を立てたいときは、別シートで細かい計算をしたうえで、その結果を標準的な項目のISにリンクさせてまとめるという形にするとよいと思います。

IS項目の予想の作り方

予想は会社情報を使いつつ、足りないところは他の情報で補う

IS項目の実績については企業のアニュアルレポート等から値を取得できますが、将来の予想は自分で立てなければなりません。企業によっては中期経営計画の中で数年後の売り上げ目標等を公表しているケースもありますので、そういった情報を参考にしつつ、その企業の属する業界の動向や他社動向、金融・経済環境等を踏まえて、予想を立てていくことになります。予想の立て方については、別の機会に解説できればと思いますが、ここではモデリングにフォーカスして話を進めます。

予想した値は1つのシートにまとめるのが便利

オペレーティングモデルを作るには、ISとBSの項目について予想を立てる必要があります。私の作ったモデルでは、これらの予想値は「inp」というシートに一括して入力しております。モデルを作成する際には、様々な予想や前提を置くことになるので、それらはできるだけまとまった場所に記載しておいたほうが、後々前提を変更する際に便利です。

DCF-予想値の作り方

「inp」シートの予想の立て方については、最も一般的に使われている比率を使用しております。売上や売上原価など、各項目が何と連動して動くかをもとに比率を決めていますので、実際に皆さんがモデルを組む際には、その企業の実態に合わせて変更しても構いません。

重要:主要な項目の予想値は複数のケースを作る

モデリングの際のテクニックですが、予想というのはズバリ的中させるのは難しく、将来の外部環境等にも影響を受けるので、計算結果に大きな影響を与える売上や売上原価などの主要項目については、強気ケース・ベースケース・弱気ケースといった何通りかのケースを作って、最終的には企業価値の予想に幅を持たせて顧客に説明することが多いです。そういったいくつかのケースを作って柔軟に予想を変更する場合、エクセルのCHOOSE関数を使うのが便利です。このモデルでは、inpシートの売上と売上原価の2項目について、それぞれ3つのケースを作っています。coverシートにあるケース選択タブ(B11セル)を変更すると、inpシートの7行目と12行目にある売上と売上原価のケースが自動的に変わり、それによってモデルの計算結果も自動的に変わるようになります。

このモデルでは、単純化できるところはできるだけ単純化してわかりやすくすることを心がけた一方、実践に結び付かなければ意味がないので、持分法による投資や被支配持分利益など、多くの上場企業でみられる項目はそのまま残しております。もしかしたら、一部の方にはわかりにくいかもしれませんが、その場合は一旦わからない部分はそのままにして、モデル全体の作りや流れを見るなど、わかるところから理解していってみてください。

注意:減価償却、受取・支払利息は空欄のまま

最後に、このステップのタイトルを見ていただくと、カッコ書きで(ただし、減価償却、受取・支払利息は空欄のまま)と書いてあります。この理由は次のとおりです。減価償却の金額は、BSの設備投資の金額と一緒でなければ計算できないので、次のステップ3で計算することになります。受取・支払利息についても、利息はステップ4で負債の計算をしないと出てこないので、ここでは空欄のままとなります。なお、受取・支払利息は、ステップ1で説明したように循環参照を発生させることになるので、ステップ4で計算した後もすぐにはISにリンクさせず、モデル構築の最後の方、ステップ9でリンクさせることになります。

次のステップ

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コメント

  1. Valuation勉強中 より:

    お世話になります。
    日々こちらのサイトで勉強させて頂いております。
    本当に素晴らしいサイトです。ご提供頂きありがとうございます。

    非支配株主持分の計算について疑問があり質問させて下さい。
    以下2点ご回答頂ければ幸いです。

    ・非支配持分利益の計算ロジック
    ベタ打ちで前年比1.05となっておりますが、どのようなロジックになりますでしょうか。

    ・非支配株主への配当
     そもそもですが、非支配株主への配当を計算する理由はなぜでしょうか。
     また、非支配株主への配当の計算ロジックをご教示頂けますでしょうか。
     ベタ打ちで非支配持分利益×0.5となっておりますが、ロジックがわかりかねております。
    さらに、非支配株主への配当を非支配持分から控除するのはなぜでしょうか。
    非支配株主へ配当するのはA株式会社の子会社になりますので、
    非支配株主持分はもらった配当の分だけ増加するのではないでしょうか。

    以上、ご教示よろしくお願い致します。

    1. 壁道さん より:

      ご質問ありがとうございます。

      被支配株主持分利益の計算ロジック
      ・このモデルでは、モデリングのテクニック習得に力点を置いているため、被支配株主持分の計算ロジックについては単純化しております。
      ・ベタ打ちで前年比1.05としているのは、子会社利益が前年比+5%で推移するという前提によるものです

      被支配株主への配当
      ・被支配株主への配当を計算する理由は、連結での財務三表を作成するためです。被支配株主への配当は、連結で見た場合には現金の流出となり、BSの現預金の値に影響を与えます。親会社株主への配当も被支配株主への配当もどちらもDCFの計算結果に影響を与えませんが、配当を計算しないと現預金の金額が計算できず、財務三表が完成しません。
      ・被支配株主への配当は、単純化のため配当性向50%という前提を置いているため、被支配持分利益×0.5としております。
      ・被支配株主持分は、子会社純資産のうち被支配株主に帰属する部分になります。この純資産は子会社が利益を生めば増加し、その利益の中から配当を行えば減少します。単純な例を示すと、親会社持分80%の子会社が利益100生み出し、配当を50行ったとします。この場合、被支配株主持分は利益の増加によって100×20%=20増加する一方、配当により50×20%=10減少します。なお、このような連結会計における処理は簿記2級で学習することができますが、参考までに子会社配当の連結会計上の処理方法に関するウェブサイトリンクを貼付いたします。
      https://2kyu.sukimaboki.com/renketu-haitou/

  2. Valuation勉強中 より:

    管理人様

    お世話になります。

    早速ご回答ありがとうございます。
    非支配株主持分に対する疑問がクリアになりました。
    基礎的な質問にも丁寧に回答頂き恐縮です。
    個別と連結財務諸表の視点からもValuation考えることができておりませんでした。

    引き続きこちらのサイトで勉強させて頂きます。
    よろしくお願い致します。

  3. KF より:

    お世話になります。
    無形固定資産の償却の扱いについて教えてください。
    ダウンロードさせていただいたエクセルシートによると、分析企業の無形資産の規模が大きいと減価償却費及び償却費/期初固定資産の値が異常値になりその後のBSの予測などに影響が出ます。
    有形固定資産とは別項目を設けるべきでしょうか?その際にはどのような形にすべきでしょうか。
    ご教示いただきたく存じます。

    1. 壁道さん より:

      お世話になっております。
      無形固定資産の規模と異常値の発生は関係しないはずですので、以下に沿って修正を試してもらえますでしょうか?
      1.calcシートに無形固定資産の項目を作り、有形固定資産と同様に期初残高、投資、償却、期末残高を計算する
      2.ISの償却費にcalcシートの償却費を加える
      3.BSののれん及び無形資産にcalcシートの期末残高をリンクさせる
      4.CFの営業CFと投資CFにcalcシートの償却と投資をそれぞれ追加する
      元々のモデルでは、のれんおよび無形資産の中身はのれんのみを想定して、償却せず実績値をそのまま計画期間に反映させておりましたので、これを有形固定資産と同様に計算するように変更していただくことで正しく計算できると思います。

  4. 田中 より:

    お世話になっております。

    ここでの金融収益、金融費用の計算はどのように行なっているのかご教授していただければ幸いです。

    1. 壁道さん より:

      お読みいただいたページ最下段「注意:減価償却、受取・支払利息は空欄のまま」の項目で理由も含めて記載しておりますが、金融収益、金融費用は後のステップで計算することになりますので、この段階では無視して読み進めていただければと思います。

  5. 永遠のアナリスト より:

    お世話になっております。数式の組み方についての質問です。
    例えば、次年度の売上高を計算する際に、壁道様の回答シートだと、
    今年度売上高×(1+成長率)ではなく、
    (1+成長率)×今年度売上高という数式になっておりますが(成長率は別シートから参照)、
    これはctrl+[で参照元をたどる際のトレースのしやすさを考慮したものでしょうか?

    ご確認よろしくお願い致します。

    1. 壁道さん より:

      おっしゃるとおり、トレースのしやすさを考慮して、別シートへの参照を数式の前に来るようにしております。

      1. 永遠のアナリスト より:

        ありがとうございます。理解しました。

  6. TT より:

    お世話になっております。
    いつも勉強させていただいております。
    初心者質問ですみません。
    純利益が+にも関わらず、非支配株主持ち分が-になるのは、
    この対象としている財務諸表が、A株式会社、A株式会社の子会社の連結財務諸表であるからでしょうか。(A株式会社単体では+だが、子会社が-であるが故に子会社の非支配株主に帰属する利益が-となる、と理解しております)
    A株式会社の親会社から見た場合の、A株式会社、子会社、そして関連会社の少なくとも3社が存在するものとして理解しておりますが、相違がある場合はご指摘いただけますとありがたいです。
    どうぞよろしくお願いいたします。

    1. 壁道さん より:

      お世話になっております。非支配株主持分がマイナスになっているのは、ご記載のとおり”A株式会社単体では+だが、子会社が-であるが故に子会社の非支配株主に帰属する利益が-となる”ことが理由で間違いございません。

  7. YO より:

    お世話になっております。
    いつも勉強させていただいております。

    非支配持分利益、2018期に「1,000」という数値がベタ打ちで入力されています。
    inpシート作成時点ではISの利益予想は立たないと思いますが、
    この点、ロジックをご教示いただけますと幸いです。

    また、こちらの数値は売上成長率とは連動していないかと存じますが、
    この点は宜しいでしょうか。

    お忙しいところ恐縮ですが、ご返信お願い申し上げます。

    1. 壁道さん より:

      ご指摘のとおり、非支配持分利益の予想を立てるには、当該子会社の事業計画等が必要になります。このモデルでは、複雑になりすぎることを避けるため、子会社の利益予想は所与の値としていることから、便宜的に1,000とベタ打ちしております。実際のモデリングにおいては、バリュエーション結果への影響が大きい子会社についてはDCFを別途作成することもございます。
      なお、非支配持分利益は100%保有ではない連結子会社の非支配株主に帰属する利益ですので、このモデルで計算している親会社の連結ベースの売上成長率とは連動しなくても問題ございません(連結ベースの売上成長率と子会社の売上成長率は異なるため)。

  8. シニア修行僧 より:

    減価償却の考え方について教えて下さい。このモデルにおいては、売上原価率・販管費率を売上に対して構成比で考えた上で、別途固定資産金額対比の減価償却金額比率で償却額を計算しています。厳密には、減価償却には売上原価と販管費の内数ながら、(償却費が大きな変動なく、売上原価や販管費を超えることはないとの前提で)、簡便に処理しているという考えで作っているということでしょうか?

    1. 壁道さん より:

      お世話になっております。当モデルは財務モデリングの基本的な構造をご理解いただくことを目的としているため、ご記載のとおり減価償却費の計算方法は簡便な計算方法としております。

  9. シニア修行僧 より:

    税金の処理についても、課税所得と会計上の利益を出して、法人税等調整額を厳密に計算するのは難しく、簡便には税前利益に実効税率などを乗じて税金支払としていることが一般的でしょうか。

    1. 壁道さん より:

      お世話になっております。通常、バリュエーション計算時に課税所得を厳密に計算することまでは行わず、ご記載のとおり税前利益に実効税率を乗じて税金額を算出します。

  10. YO より:

    お世話になっております。製造業の場合、売上原価内に製造原価が含まれ、製造原価内には減価償却費が含まれています。設備投資による減価償却費の増加が、このモデルでは考慮されていないように思えるのですが、この点についてご教示いただけますでしょうか。

    1. 壁道さん より:

      お世話になっております。ご指摘のとおり、製造原価内に減価償却費が含まれます。モデルを組む際に減価償却費をどこまで精緻に計算するかは得られる情報の粒度次第ではありますが、このモデルでは簡便的な方法の1つとして、固定資産に対する一定の比率(具体的には14%)を償却費としています。これは、償却年数が7.14年で一定という仮定を置いていることになりますが、固定資産には新規に設備投資したものも含まれるため、設備投資による減価償却費の増加も考慮されていることになります。

  11. Student より:

    お世話になっております。

    上記コメント内でご回答いただいている内容かもしれませんが、理解が及んでおらずご質問させていただきます。
    ISシートの26行目において、非支配株主持分がマイナスになっているのは、上記コメントより「A会社の子会社の純利益」がマイナスになっていると理解できました。

    一方で25行目において、27行目から26行目を引いた計算を行っているのは何故でしょうか?
    G27列以降では、当期純利益を「親会社」と「非支配株主」に配分するという意味合いがあるかと思われるのですが、そう理解するとF列以前の計算はどういう意味になるのか悩んでしまっておりますためご質問させていただきました。

    よろしくお願いいたします。

    1. 壁道さん より:

      お世話になっております。
      25行目の計算は、F列以前とG列以降で違いはありません。27行目の合計は22行目で計算した当期純利益になります。また、26行目の非支配株主持分もこのモデルでは所与の値としております。当期純利益と非支配株主持分が分かれば、親会社の所有者に帰属する当期利益が計算できるため、27行目-26行目で計算しております。

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