
M&Aモデル構築のステップ14では、calcシートで親会社株式の変動と運転資本を計算します。計算方法はDCFモデルと同じですが、計算する項目が少し異なりますので、異なる点を中心に解説します。
ステップ14:親会社株式の変動と運転資本を計算する
オペレーティングモデルと同様に、IS構築後はcalcシートを作成する
オペレーティングモデルの構築12のステップでは、ISを構築した後にcalcシートでmixedアカウントの計算を行ってからBS構築を行いました。これは、mixedアカウントで計算する設備投資等のBS項目は、ISの値を用いて計算する必要があるため、BSを構築する前にmixedアカウントの計算を行わないとBS項目を完成させられないためです。
M&Aモデルでも、オペレーティングモデルと同様にISを構築した後、BSを構築する前にcalcシートでmixedアカウントと運転資本を計算します。ただし、設備投資や無形固定資産は2社のオペレーティングモデルとadjシートでのフェアバリュー調整で既に計算しているため、M&Aモデルではこれらを足し算するだけで済むので、改めてcalcシートで計算する必要はありません。なので、M&Aモデルにおけるmixedアカウントの計算は、親会社所有者の株式のみとなります。
親会社所有者の株式の計算方法はDCFモデルと同じですので、以下のDCFモデルの解説を参照してください。
また、DCFモデルと同様に運転資本もcalcシートで計算します。運転資本の各項目の計算方法は、2社の値を合算するだけにしておりますが、より緻密な計算方法としては、シナジーによって営業債権や営業債務等が変化することまで織り込むというやり方もあります。

お世話になっております。
負債発行費用の償却(税引後)等の各種償却費や繰延税金資産の計算時に実効税率ではなく限界税率を使用する理由をご教示いただけますでしょうか。
お世話になっております。
ご質問の点、当モデルにおける実効税率と限界税率の定義や違いについて説明が不足しており、わかりづらくなっておりました。
2つの言葉は以下のように定義して使っております。
実効税率:企業が実際に支払った税率で、海外展開している企業については各国における利益と税率を加重平均した値。また、一時的な減税措置等も含まれる
限界税率:企業が追加で一単位の利益をあげた際に支払う税率。
負債発行等により追加で生じた費用に対して適用される税率は、その費用を税務上申告する特定の国の税率が適用されますので、実効税率(=各国の税率の加重平均)ではなく、限界税率を使用することになります。
なお、多数の国に事業展開している企業については、どこの国で利益を上げたかによって適用される税率が異なるため、厳密には展開している国の数だけ異なる限界税率がありますが、モデル上はわかりやすさを優先して1つの値にそろえています。