投資銀行の本格的LBOモデル作成方法をエクセル付きで解説8

前回までに設定した各種前提を使って、買収直後のBSを作成します。LBO投資によって、買収対象企業のBSは負債が増加、普通株式が減少、のれんが消滅するなどの調整が生じますので、その調整項目と調整方法を見ていきます。

ステップ6:買収直後のBSを試算する

買収によるBSの2つの調整

LBO投資では、負債と株式を使って買収対象企業の株式を購入するので、買収後のBSは(買収プレミアムを考慮しなければ)買収前と比べて負債が増加し、株式が減少します。また、買収前にあったのれんが消滅するほか、ステップ3で説明したPPAによって資産・負債が時価評価された場合には、資産や負債の各項目の値も変動します。

これらの変動を加味した、買収直後のBSを試算する際、私のモデルでは調整項目を「調達」と「会計」の2つに分類しています。「調達」ではLBO投資による資金調達による変動を調整しており、「会計」では資金調達以外の変動(のれんやPPA等)を調整します。

C列が買収前のBSで、D列の「調達」とE列の「会計」それぞれの調整を加えて、F列で買収直後のBSを試算しております。

買収対象企業のBSに資金調達項目を加える

買収後のBSを試算する際の最初のステップは、買収前のBSにLBO投資に伴う資金調達項目を加えるというものです。下の図で赤枠で囲まれている項目が、買収に伴って加えた項目になります。

LBO-BS項目追加

「調達」の調整を行う

次に、D列で調達項目の調整を行います。この部分は、ステップ4の費用とステップ5の資金調達のセルからリンクさせます。「調達」の調整は比較的シンプルにできると思います。1点留意していただきたいのは、現金です。LBO投資では、基本的に余剰現金があれば負債の返済に回すことになるので、現金は限りなく少なくしますが、事業運営上必要な最低限の現金は維持する必要がありますので、ステップ1の前提条件で設定した最低現金を入力します。

「会計」の調整を行う

E列の会計項目の調整では、D列で行った以外の全ての調整を行います。こちらは少しわかりづらい部分もあると思いますので、どのような調整をしているかを下に列記します。

~会計項目の調整方法~

現金:調達項目の調整で入力した最低現金だけが残るように、買収前の現金残高を差し引く

のれん:買収前ののれんは買収後に消滅するので、買収前ののれんを差し引き、ステップ3で計算した本件買収によるのれん金額を加える

買収前の負債(短期と長期):買収に伴い、負債は借り換えるという前提にしていますので、買収前の負債を差し引きます

親会社の所有者に帰属する持分:買収に伴い、普通株式は調達項目で入力した値(=LBO投資における株式)に置き換わるので、買収前の普通株式を差し引くとともに、アドバイザリー手数料は買収した年度の費用として計上するため、利益剰余金の減少になるので、アドバイザリー手数料も差し引きます。

バランスチェックを行う

正しく「調達」と「会計」の調整を行うと、F列のバランスチェックがゼロとなります。ただし、ゼロになるためには、ステップ3で空欄としていた「対象会社純資産」の項目に、買収前BSの「親会社の所有者に帰属する持分」から「のれん」を差し引いた値を計算する式を入力する必要があります。

もしF列がバランスしない場合は、調整項目が漏れていたり、プラスとマイナスの符号が逆だったりといった間違いが発生していますので、各入力内容を再度チェックしてください。

バランスしたことが確認出来たら、空白のままにしているF21セルにネットデットの値を入力してください。

次のステップ

前のステップ

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コメント

  1. Yoshi より:

    LBOモデルの中でのれん(の計算で必要となる対象会社純資産)の計算とネットデットの計算につき質問させてください。解答を見ると、対象会社純資産は親会社所有持ち分から既存ののれんの数字をひいて算出しておりますが、こちらは純資産の合計(非支配者持ち分を含む)から算出する方法では誤りなのでしょうか?
    また、同様にネットデットについて優先株と非支配者持ち分を加えてデットからキャッシュをひいて算出しておりますが、こちらは優先株と非支配者持ち分を足すのは一般的なのでしょうか。
    自分で上記の前提で計算したところバランスしなくなってしまうのですが、理由がわからずこの点も併せてご教示くだされば幸いです。

    1. 壁道さん より:

      被支配者持分を含む純資産を用いることは、のれん計算上誤りとなります。のれんは買収価格(=時価)と純資産(=帳簿価格)の差額で計算しますが、そもそも買収価格には被支配株主持分の価値が含まれません。というのも、被支配株主持分は親会社に帰属しないため、親会社株式を買う人にとって被支配株主持分は(株式価値を計算する上で)無価値となるからです。のれん計算は、買収価格(=時価)とそれに対応する純資産(=帳簿価格)の差分で計算するので、買収価格に含まないものを純資産に含むと、時価と帳簿価格で別のものを比べていることになり、誤った計算となってしまいます。

      優先株と被支配株主持分をネットデットの項目に含むか、別の項目として独立して表示させるかはどちらでも構いませんが、買収価格(株式)から企業価値を計算する際に優先株と被支配株主持分を足すのは一般的な取り扱いになります。この理由としては、買収価格(株式)は普通株式保有者にとっての価値である一方、企業価値は普通株式保有者に加え、優先株や社債やローンの債権者、被支配株主持分など全てのステークホルダーにとっての価値となるため、株式価値から企業価値を計算するには優先株と被支配株主持分を足す必要があるためです。

      1. B より:

        新株予約権が存在する場合も非支配株主持分と同様の取り扱いになりますでしょうか。

        1. 壁道さん より:

          新株予約権の取り扱いが非支配株主持分と同様かとのご質問ですが、どのような意味で同様とお考えかにもよるかもしれませんが、基本的な取り扱いとしては異なります。親会社において新株予約権が発行されている場合、権利が行使されても既存株主の持分が希薄化するだけで権利行使自体は収支に影響を与えませんので、EVやEBITDAは変化せず、また親会社の株式価値も変化しません。非支配株主持分が増減した場合も、EVやEBITDAは変化しませんが、その分親会社の子会社持分が増減することになり、株主価値が変化します。

          1. B より:

            不明瞭な聞き方をしてしまい申し訳ございません。
            LBO実施時に新株予約権が存在する場合、規定にもよるとは思いますが、基本的には消滅するという理解でよろしいでしょうか?権利行使させる場合は発行済株式総数が増え、時価総額がその分増加する認識です。
            また、のれんの計算にあたって、新株予約権はどのように考慮すべきでしょうか(少数株主持分と同様でしょうか)?

          2. 壁道さん より:

            ご理解のとおり、金銭的補償や買収企業の株式と交換するなどの方法により、基本的には消滅するという理解になると思います。のれん計算にあたっては、新株予約権の権利行使価格が時価より上か下かによって取り扱いが異なりますので、詳しくは以下のページの解説をご参照ください。
            https://finance-rice-field.com/modeling-topic-dilution

      2. N より:

        新株予約権が存在する場合はのれん計算、株式価値からEV算出時にどのように取り扱いますでしょうか?
        また、LBO実行後も新株予約権は残りづづけるものでしょうか?

        1. 壁道さん より:

          LBO実行後も新株予約権が残り続けるかどうかは新株予約権の実際の転換条件を確認して判断することになりますが、一般的には新株予約権は金銭的補償や、買収企業の株式に交換したりして消滅することになります。バリュエーション上の取り扱いとしては、株価が新株予約権の転換価格を上回っているかどうかで異なり、上回っている場合は株式と見なして計算し、下回っている場合は負債として計算します。詳しくは以下のページで解説しておりますので、参考にしてみてください。
          https://finance-rice-field.com/modeling-topic-dilution

  2. masaki より:

    「会計」の調整について以下の部分におけるご解説を詳細に頂けると幸いです。なぜ対象会社の買収前ののれんが買収後に消滅するのか理解できず。。。
     →「のれん:買収前ののれんは買収後に消滅する」

    1. 壁道さん より:

      のれんは、買収価格と対象会社の時価純資産の差として計算されます。対象会社の時価純資産の算出方法は、対象会社の資産と負債を時価評価し、時価評価した資産と負債の差が時価純資産となります。この時、対象会社の資産に計上されているのれんは、過去の買収における買収価格と対象会社の時価純資産の差であり、資産としての価値を有しているものではないため、消去することになります。
      その上で、新たに行った買収に伴うのれんは、買収価格と買収前ののれんを控除した純資産の差として計算することになります。
      少しわかりづらい処理ですが、参考になれば幸いです。

  3. Yoshi より:

    現金:調達項目の調整で入力した最低現金だけが残るように、買収前の現金残高を差し引くというところですが、仮にネットデットが負の値になるような場合は期初BSの現預金水準はミニマムキャッシュになるのでしょうか。そうすると、ネットキャッシュであったキャッシュはどこに充当されるのでしょうか。ご教示よろしくお願いいたします。

    1. 壁道さん より:

      ネットキャッシュの場合であっても、LBOモデルでは負債がある間は余剰現金を持たないため、期初BSの現預金水準はミニマムキャッシュとなります。
      ネットキャッシュ企業の場合、E70(既往債務の借換え)がマイナスになっていると思います。マイナスになっている=余剰キャッシュが生じている分は、Sourcesを減少させます(=期初時点で負債額を減額させる)。モデル上は、Sources合計はUses合計と連動しているため、自動で減少していきます。
      Sourcesが減少した分は優先株を減少させていき、優先株がゼロになった場合にはハイイールド債を減少させるといった形で調達額の各項目を減少させていきます。モデルでは、優先株は他の調達額の残額として計算するので、ネットキャッシュ額が大きくなると優先株がマイナスになってしまいます。その場合には、マイナス分だけハイイールド債等を減額させていくことで優先株がマイナスにならないように調整してください。

  4. やま より:

    大変お世話になっております。
    モデルのケースでは、買収前の時点で親会社所有者帰属持分<のれんとなっており、時価純資産がマイナスとなっていますが、そのような会社がLBOの対象になり易い等の背景があるのでしょうか。或いは設例の設定上たまたまそうなっているだけでしょうか。

    1. 壁道さん より:

      親会社所有者帰属持分<のれんとなっている企業がLBOの対象になりやすいということはなく、DCFモデルと同じ企業をLBOモデルの対象にしたことで偶然生じたものです。
      この対象企業は、過去に積極的に買収を行ってきたほか、株主還元にも積極的であれるため、のれんが親会社所有者帰属持分を上回るという状況が生じています。このような状態は、のれんを定期償却しないIFRSやUS-GAAP適用企業ではそれほど珍しいものではございません。

      1. やま より:

        有難うございます。クリアになりました。

  5. take より:

    ネットデットの計算方法につき、「買収前」の買収対象会社BSを参照して算出されておりますが、何故「買収後」のBSから算出しないのでしょうか。

    1. 壁道さん より:

      21行目のネットデットは、対象会社の買収価格を計算するために使っております。買収価格の計算では、買収前の株価と買収前のネットデットから企業価値を算出するため、買収後ではなく買収前としております。

  6. Z より:

    直接ご提供頂いているモデルとは関係のない質問なの恐縮ですが、もし可能であればご回答頂けますと幸いです。

    リース債務、退職給付に係る負債がある場合について、以下の理解で合っているかお伺いしたく存じます。
    ・両者はEntry時、Exit共にDebtに含めて(後者は税効果考慮後)株式価値を計算
    ・リース債務はLBO実行時における既存債務の返済の対象とはならず、LBO前と同様の条件でLBO実行後も返済
    ・リース債務の返済順位は基本的にはシニアローンと同じ扱いではあるものの、DSCR等の指標の計算時には除かれる

    1. 壁道さん より:

      お世話になっております。
      リース債務と退職給付にかかる負債はdebtに含めて計算します。
      リース債務は既存債務の返済の対象してはいけないということはなく、対象とするかどうかは既存のリース条件を踏まえて案件毎に判断することになります。
      リース債務の返済順位は基本的にはご認識の通りですが、実際には契約内容を見て都度判断となります。一般的にはリース債務もDSCRの計算に含まれると認識しておりますが、何かしらの理由で除外することが妥当と考えられるケースがある場合は、除外していることを説明の中で明確にされることをお勧めします。

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