投資銀行の本格的LBOモデル作成方法をエクセル付きで解説5

今回は株主構成とのれんを計算していきます。LBO投資では、買収後の業績向上に対してインセンティブを与えるため、経営陣に対して株式を付与することがあります。また、のれん計算とPPAの概要についても解説します。

ステップ2:株主構成を設定する

LBOのリターンを最大化するための株主構成の考え方

LBO投資では、負債を用いることにより、小さな資本で大きな買収を行います。買収後は、買収した会社のキャッシュフローで負債を返済していき、最終的には会社を売却することで利益を確定させます。

これを計算式で見ると、以下のようになります。

~LBO投資の利益~

利益 = 売却時のEBITDA × 売却時のEV/EBITDA倍率 – 売却時のネットデット – 買収価格(買収時の株式価値)

当然の話ではありますが、買収後にEBITDAが増加するほど、売却までの間に返済する負債の金額が大きくなるため、売却時のネットデットが少なくなりますし、売却時のEV/RBITDA倍率が一定であれば売却価格も上昇するため、LBO投資の利益が大きく増加することになります。

このため、LBO投資では経営陣に対して利益増加へのインセンティブを与えるために株式を付与することがあります。こうすることで、経営陣は経営の成果を給料だけでなく株主として享受できるので、LBO投資家と利害が一致して、よりよい成果につながると考えられています。

私のモデルでは、買収時にPEファンドが100%保有し、売却時までに経営陣に2%の持分を付与するように設定しています。

LBO-株主構成

経営陣への持分付与に関する補足説明

私のモデルでは単純化のために経営陣への持分付与は無償で行われる形にしておりますが、実際には、買収前の経営陣を継続させるのか、新たな経営陣を連れてくるのか、買収前の経営陣は株式を保有しているかなどの状況によって、持分付与の方法は様々あり、有償で行われるケースもあります。

有償で行われる場合、PEファンドと同じ取得単価にしてしまうと、それはPEファンドのLP投資家と同じ条件となってしまい、経営陣へのインセンティブが薄くなってしまうので、通常はPEファンドよりも有利な条件(=小さい取得単価)で経営陣は株式を取得できるようにすることがあります。

この有利な条件のことを、Envy ratioと呼び、以下の計算式で算出します。

~Envy ratioの計算方法~

Envy ratio = (PEファンドの投資金額 ÷ PEファンドの持分) ÷ (経営陣の投資金額 ÷ 経営陣の持分)

Envy ratioの水準は、5~10倍程度に設定されることが多いように思いますが、経営陣の持分比率などその他の諸条件とセットで検討されます。

ステップ3:のれん計算の項目を設定する

のれんの計算方法を知る

次のステップは、買収によって生じるのれんの金額を計算します。ただし、現段階では買収価格はステップ1で計算していますが、対象会社の純資産の金額はまだ設定していないので、「対象会社純資産」の項目は空欄となります。

LBO-のれん2

ここで、のれんの計算方法について、私のモデル上での計算方法を解説しておきます。

買収によって生じるのれんは、買収価格から対象会社の純資産を差し引いて計算されますが、この純資産は買収前ではなく買収後に資産・負債を再評価した後の純資産になります。M&Aを行った場合、買収を行った会社は、買収対象会社の資産及び負債を買収基準日時点における時価で再評価して、買収を行った会社の財務諸表に取り込むという作業が必要になります。これをPPA(パーチェス・プライス・アロケーション)と呼び、買収を行った会社は買収後1年以内にこれを行うことが要求されます。

このPPAを行うことによって、例えば、買収対象会社のブランド価値を無形資産として評価したり、土地を時価で評価しなおすことになり、その分買収対象会社の純資産が変動します。この変動した後の純資産と買収価格の差がのれんになります。つまり、時価評価後の買収対象会社の純資産が買収価格と一致していれば、のれんは生じないことになります。

このPPAにおいて1つ注意していただきたいのが、買収対象会社が買収前に有しているのれんは、それ自体の価値はないので、時価評価をゼロにするということです。

私のモデルでは、PPAによる対象会社の有形・無形資産と負債の変動は生じなかいものと仮定して、買収対象会社に存在していたのれんだけが買収対象会社の純資産から差し引かれるものとしています。その結果、私のモデルでは、買収対象会社は純資産よりも大きなのれんを有しているので、対象会社純資産はマイナスの値となっています。

のれんは、日本の会計基準では20年以内に償却することが求められていますが、私のモデルはIFRS適用を想定しているので、のれんは償却しません。

次のステップ

前のステップ

コメント(質問への回答はご購入者に限定して対応しております)

  1. FASCPA より:

    コメント失礼いたします。

    下記文章の意味がいまいちつかめなかったのですが、補足説明いただけますと幸いです(補足の補足となってしまって申し訳ございません。。。)。

    「有償で行われる場合、PEファンドと同じ取得単価にしてしまうと、それはPEファンドのLP投資家と同じ条件となってしまい、経営陣へのインセンティブが薄くなってしまう」

    1. 壁道さん より:

      PEファンドは、投資した会社の業績を向上させるために優秀な経営陣を必要とします。ファンドメンバーを取締役として送るケースも多くありますが、全ての経営陣をファンドメンバーから拠出することは社内リソース上難しいため、従来の経営陣に残ってもらうか、外から新しく経営陣を連れてくる必要があります。
      この経営陣に対して、業績向上のために働いてもらうインセンティブとして会社の株式を交付することがありますが、有償で交付する場合、PEファンドの取得単価よりも低い取得単価に設定してあげることで、経営陣は少ない金額で多くの株式を取得することができるため、インセンティブ(=業績連動ボーナスのような意味合い)として価値が大きくなります。逆にこの取得単価がPEファンドの取得単価と同じになってしまうと、経営陣個人が支払うことができる金額に対して取得できる株式数が少なくなってしまうため、業績に連動して増加する株式の価値も小さくなり、インセンティブとしての意味合いが弱くなってしまいます。
      英語でenvy ratioと検索すると、この点についての説明を見つけることができます。以下、1つご参考としてリンクを貼付いたします。
      https://corporatefinanceinstitute.com/resources/knowledge/finance/envy-ratio/

      1. FASCPA より:

        ご説明いただきありがとうございます。理解できました。

  2. 勉強中 より:

    こんにちは、大変参考になります。ありがとうございます。
    貴サイトに以下のように書かれており、直感的に理解できずに苦しんでおります。もし可能でしたらご教示いただけますでしょうか。

    >~LBO投資の利益~

    >利益 = 売却時のEBITDA × 売却時のEV/EBITDA倍率 – 売却時のネットデット – 買収価格

    私が理解しにくいのは、LBOの投資利益を計算する際に、最後に(-買収価格)とある点です。イメージでは

    売却時のEBITDA × 売却時のEV/EBITDA倍率 – 売却時のネットデット

    が計算された時点で、ネットデッドが差し引かれているため、計算結果は銀行等貸主に対する債務が解消された金額になると思います。すると、銀行への債務はなくなっている状態ですから、当初の買収価格がいくらであろうと利益が出ている、と考えられないでしょうか。

    具体的には、以下の条件があるとします
    -当初買収価格 $10M(全部デッドを使って買った)
    -売却時EBITDA $5M
    -売却時EBITDA マルチプル2倍
    -売却時ネットデッド$5M

    この際、上記

    $5M(売却時のEBITDA) × 2倍(売却時のEV/EBITDA倍率) – $5M(売却時のネットデット)

    を当てはめますと結果は$5Mとなります。

    この時点で$5Mのデッドがすでに差し引かれていることから、計算された価値は企業価値からデッド分を差し引いたものになり、ここで計算された価値はこれ以上誰に対してもお金を返さなくてもよい状態ということになるとおもいます。そのため、株主は$5Mのキャッシュを丸々ゲットすることができるかと思います。

    ここで、さらに買収価格である$10Mをマイナスして利益とみなすのはなぜでしょうか。質問がわかりづらい場合申し訳ございません。

    1. 壁道さん より:

      買収価格は、ここでは買収時の株式価値を指しております。これを踏まえると、ご質問の式は、利益 = 売却時のEBITDA × 売却時のEV/EBITDA倍率 – 売却時のネットデット – 買収価格 = 売却時の株式価値 – 買収時の株式価値となります。

      具体事例として挙げていただいた条件につきましては、当初買収価格(おそらく株式価値ではなくEVを指しているものと思います)$10Mは全てデットを使用とされておりますが、買収する側の企業が買収資金をデットで調達したとしても、その買収資金は被買収企業の株式とネットデットの合計(=EV)を取得するために使用されるため、$10Mの一部は株式取得のために使用されます。ご質問者様は、買収資金をどのように調達したかということと、買収資金を何に使ったか(対象会社の株式か負債か)を混同しているものと思います。

      LBOによる買収の利益は売却時の株式価値から買収時の株式価値を差し引いたものになるので、買収時の株式価値がゼロであれば売却時の株式価値全部が利益となりますが、そうでなければ買収時の価格と売却時の価格の差分が利益となります。

  3. Tatsu より:

    こんにちわ。コメントを失礼します。
    「買収によって生じるのれんは、買収価格から対象会社の純資産を差し引いて計算されます」とのことですが、実際の計算では「のれん及び無形資産-親会社の所有者に帰属する持分」を買収価格から引いているので、実際には買収価格に純資産を足しているのではないかと考えてしまします。こちらはのれんがある場合の処理との理解で宜しいでしょうか。

    ・(対象会社にのれんがある場合)買収価格-(のれん及び無形資産-親会社の所有者に帰属する持分)
    ・(対象会社にのれんがない場合)買収価格-(親会社の所有者に帰属する持分)

    またこちらの計算の際に被支配持ち分を除いているのはなぜでしょうか
    何卒宜しくお願い致します。

    1. 壁道さん より:

      お世話になっております。
      モデル上でのれんの計算は、「買収価格-(親会社の所有者に帰属する持分-のれん及び無形資産)」となっており、ご記載いただいた「のれん及び無形資産-親会社の所有者に帰属する持分」とは式が逆になっておりますので、純資産は買収価格から差し引いております。
      非支配株主持分を差し引いているのは、39行目の買収価格で取得する対象に、非支配株主持分が含まれていないためです。例えば、このモデルの対象会社が70%持分を買収によって取得した子会社を持っていた場合、残りの30%持分が被支配株主持分に計上されます。この30%持分は対象会社が保有しているものではないため、対象会社を買収しても取得できません。このため、買収価格には保有している70%持分のみが含まれます。同様に、対象会社のBSに計上されているのれんも70%持分についてのみ計上されており、被支配株主持分の30%分についてはのれんは生じておりません。以上を踏まえ、のれんの計算では、取得する対象会社の買収価格も純資産もともに、被支配株主持分を含まない形となります。

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