LBOモデルでは、最初にモデル構築に必要な各種前提条件等を設定した後に、詳細な計算に入っていきます。今回説明するステップ1では、買収価格と案件に関する前提条件の設定について、みていきます。

ステップ1:買収価格と前提条件を設定する

LBOモデルにおける買収価格の設定方法を知る

LBO(レバレッジド・バイアウト)投資は、主に金融投資家に用いられる手法です。金融投資家は、事業投資家と異なり、買収した企業を最終的に売却して利益を上げることを目的にしているため、LBOモデルも将来の売却を前提としたモデルになります。

買収価格の決め方1:市場株価を使う方法

では、どのように買収価格を設定するかというと、主に2つの方法があります。1つは、上場企業が買収対象の場合は、現在の株価に対してプレミアムを載せて時価総額を計算するというものです。

市場株価に対してプレミアムを載せる方法を採用する場合の想定買収価格(株式価値)の計算方法は以下のとおりです。

~想定買収価格の計算方法~

想定買収価格 = 株価 × (1 + プレミアム) × 希薄化後発行済株式総数

ここで注意していただきたいのが、発行済株式総数が希薄化後になっている点です。これは、すでに発行されている株式総数に、ストックオプションや転換社債など潜在的に発行済株式総数を増加させる可能性のあるものを織り込んで株式総数を計算するというものです。希薄化によってどれだけ発行済株式総数が増加するかについては、Treasury methodやIf-converted methodを用います。これは、in-the-money(イン・ザ・マネー)のストックオプションなど、株式を希薄化させるインパクトのあるものだけを考慮するという方法です。詳細は以下のリンクを参照してください。

新株予約権や転換社債の希薄化インパクト計算方法

買収価格の決め方2:EV/EBITDA等の倍率を使う方法

もう1つの方法は、過去の類似取引事例におけるEV/EBITDA倍率等の平均値や中央値を用いて、買収対象企業の企業価値(EV)を計算するというものです。こちらの方法は非上場企業に対しても用いることができます。

モデルでの具体的な計算方法

私のモデルでは、1つ目のプレミアムを載せる方法で買収価格を設定しています。最終的には、プレミアムを変動させることで買収後の期待リターンをシミュレーションすることができるので、プレミアムの水準は適当に置いておいて大丈夫です。

下のスクリーンショットをみていただくと、ネットデットとEBITDAが黄色くハイライトされています。これは、この時点ではまだネットデットやEBITDAの情報がないので、後で入力することを忘れないようにハイライトしているものです。なので、この時点ではこの2つのセルは空欄のままとなります。

LBO-買収価格の設定

前提条件に記入する項目を知る

LBOモデルでは、DCFと同様に様々な前提を置くことになります。前提条件の項目に何を記入するかは、モデルを作る人の個性や趣味、誰に習ったかによる部分もあるので、一概に正解をお示しできないのですが、私のモデルでは前提条件に置いておいた方がよいと思われる最低限の項目を記載しています。

人によっては、売上や売上原価率、売却年など全ての設定項目をこの前提条件に記載する方もいますが、ここでは説明のしやすさなどを勘案し、最低限の項目以外は実際にその前提を使用する計算セルの近くに前提も記載することにしています。

下のスクリーンショットを見ていただくと、最低キャッシュやコミットメント枠を前提条件に置いていますが、これらはISやBSを構築してから設定しても構いませんので、現時点では適当に数字を入力しておくか、空欄にしたうえで黄色などでハイライトしておいても構いません。

LBO-前提条件

財務モデリングの2つの構築方法

財務モデルをエクセルで構築する際、シートの使い方の違いで2つの手法があります。1つは、私がDCFモデルで構築したマトリックスモデルと呼ばれる手法です。これは、ISやBSなどの項目をそれぞれ別のシートで構築していくものです。

もう1つは、私がLBOモデルで構築しているタワーモデルと呼ばれる手法です。こちらは、全ての計算を1つのシートで行っていきます。

どちらを使うべきかは、構築するモデルの複雑さや会社のポリシー、個人の好みによるので、絶対的なルールはありませんが、私の場合は、シンプルな事業構造の会社であればタワーモデルで構築するケースが多いです。理由は、タワーモデルはシートを移動する必要がないので、数式の構築がしやすく、チェックもしやすいからです。

ただし、構築したオペレーティングモデルを元にDCFモデルとLBOモデルを構築する場合には、複数のシートを使った方が見やすくなるため、マトリックスモデルを使うこともあります。また、対象会社が複数の事業を行っている場合は、それぞれの事業のISを別々のシートで計算して、さらに別のシートで統合させています。

このように、モデルの構築しやすさや見やすさなどによって使い分けるとよいと思いますが、まずはタワーモデルとマトリックスモデルのどちらでもモデルが構築できるようになるとよいと思います。

次のステップ

前のステップ