M&Aモデル構築のステップ17では、利息と税額を計算します。M&Aモデルでは、2社単独の利息や税額に対して、買収に伴う各種調整を行っていきます。調整の方法と合わせて、なぜそのような調整を行うかについても触れていきます。
ステップ17:利息と税額を計算し、ISにリンクさせる
リファイナンス有無によって借入金額や利率が変わることに注意
ステップ16では、BSの長期借入金をリファイナンス有無によって変化させるように計算式を組みました。今回は、利息も同様にリファイナンスの有無を反映させられるようにしていきます。
オペレーティングモデルではdebtというシートを別に作って利息を計算していましたが、今回のM&Aモデルはそこまで複雑にならないので、calcシートで計算しています。
支払利息 – A社長期借入金は、A社が今回の買収前から有している借入金に対する利息ですので、A社のオペレーティングモデルから値をリンクさせてください。
支払利息 – B社長期借入金もA社と同様にB社のオペレーティングモデルからリンクさせるのですが、式を見ていただくと分かるように、リファイナンスする場合はゼロとなるようにrefiスイッチを数式に入れています。
支払利息 – 買収ファイナンスはadjシートからリンクをさせてください。買収ファイナンスの金額および利息はリファイナンス有無によって変動するように数式を組んでいるので、リファイナンスする場合にはB社長期借入金の支払利息がゼロになり、その分買収ファイナンスの支払利息が増加するようになっています。
負債発行費用の償却も会計上は支払利息に含みますので、adjシートからリンクさせてください。
短期借入金は、PF Comboの短期借入金の値から計算します。計算方法は、DCFモデルやLBOモデルと同様、前期と今期の平均残高に利率を乗じています。
受取利息も短期借入金と同様に、合算BSの現金の前期と今期の平均残高に利率を乗じています。
税額は2社の単純合計に調整を加味して算出する
税額についてもcalcシートで計算していきます。買い手と売り手は異なる税率の場合も多いので、合算ISに対して1つの税率を乗じて税額を算出するのではなく、2社それぞれの税額の合計に対して調整を加える形で合算税額を算出します。
調整を加える項目は以下のとおりです。
利息が増加することによるタックスシールドというのは、支払利息が増加することによって生じる節税効果のことです。計算方法は、先ほど計算した買収後の合計利息から買い手と売り手それぞれの利息を差し引いて算出した利息増加額に対して、買い手であるA社の税率を乗じて算出しています。この際、利息はネット支払利息(=支払利息-受取利息)となることに注意してください。支払利息は税金を減少させますが、受取利息は税金を増加させますので、税額計算ではネット支払利息で計算します。
フェアバリュー調整によるタックスシールドというのは、固定資産の追加認識によって償却費が増加することで、会計上の利益が押し下げられるため、その分税額が減るというものです。会計上と敢えて書いているのは、税務上は損金に算入されないためです。ここでの税額計算は、合算ISにリンクさせるための会計上の税額なので、このフェアバリュー調整によるタックスシールドを織り込んでいます。フェアバリュー調整についてはステップ4で詳しく解説していますので、復習されたい方は以下のリンクを参照してください。
次はシナジーによる追加課税分の計算です。利息増加など費用の増加が税額を押し下げるのに対して、シナジーのように収益の増加や費用の減少は税額を押し上げます。このモデルでは、シナジーは売り手であるB社の売り上げ増やコスト減に現れると仮定していますので、シナジー金額に対してB社の税率を乗じています。
算出した利息と税額をISにリンクさせる
最後に、算出した受取利息、支払利息、税額をISにリンクさせます。これらは全て循環参照を生じる項目ですので、循環参照スイッチを導入することを忘れないようにしてください。また、ここでエクセルの反復計算をオンにします。
利息で循環参照が発生する仕組みについては、DCFモデルで詳しく解説していますので、以下のリンクを参照してください。
税金に循環参照が発生する仕組みは以下のとおりになります。
~税金の循環参照~
- 税金が増減する
- 純利益が増減する
- 営業キャッシュフローが増減する
- 期末キャッシュが増減する
- BS上の現金が増減する(または短期借入金が増減する)
- ネット支払利息が増減する ⇒ ①に戻る ⇒ 無限ループの発生(=循環参照)