投資銀行の本格的M&Aモデル作成方法をエクセル付きで解説17

M&Aモデル構築のステップ18では、EPS分析を行います。これは、買収前後でEPS(=一株当たり利益)が増加するかをみることにより、検討しているM&Aにおいて、支払おうとしている価格が妥当なものかを分析するもので、M&Aモデルの最も重要なアウトプットの1つになります。

ステップ18:EPS分析を行う

最初に合算純利益の調整を行う

EPS分析というのは、買収前と買収後でEPS(=一株当たり利益)が増加するかどうかを分析するものです。EPSが増加するのであれば、その買収は買い手企業の価値を高めることになりますし、逆にEPSが減少するのであれば、その買収は価値を下げることになるので、買収しない方が株主にとってプラスということになります。

このEPSの比較を行う前に、買収前と買収後の実際の収益力の比較ができるように、純利益に調整を行う必要があります。このモデルではcalcシートで調整後純利益を計算しています。

純利益の調整は2つの観点から行います。1つ目の観点は、買収に伴って発生した、ノンキャッシュアイテムと呼ばれる実際には現金支出を伴わない費用等を調整することで、買収後の純利益を買収前と比較可能にするというものです。

具体的には、フェアバリュー調整によって増加した償却費と負債発行費用の償却費が該当します。フェアバリュー調整は、買収に伴って行った会計上の時価評価の見直しですが、実際には現金の移動は伴っていません。買収前に認識していなかった営業権のような無形固定資産を、買収によって固定資産に計上するように調整しただけであって、実際の支出を伴っていないので、買収前と比較するにはこのフェアバリュー調整に伴う償却費は足し戻さないと、買収後のEPSを過小評価することになります。

また、負債発行費用の償却費も同様に非現金支出なので、買収前と比較する際には足し戻す必要があります。

1点注意が必要なのは、足し戻す際には償却費から節税効果を控除した税引後の値を足し戻すということです。償却費は会計上の税額を減少させているので、償却費を足し戻す際には、償却費によって発生した節税効果(=償却費×税率)分を控除しないと、過大に足し戻すことになってしまいます。これは負債発行費用の償却についても同様です。

純利益調整のもう1つの観点は、買収前と買収後ともに非現金支出を控除して、EPSをよりキャッシュフロー(=実際の収益力、キャッシュ創出力)に近い状態にするという調整です。

具体的には、買収後の純利益については、A社とB社それぞれの無形固定資産の償却(税引後)を足し戻すというものです。無形固定資産の償却には、先ほど説明したような過去の買収による営業権の認識などが含まれており、実際の現金支出を伴わないので、これを足し戻すことで、よりキャッシュフローに近くなります。

調整後純利益の調整方法や定義には様々ありますが、有形固定資産の償却費は足し戻さないことが多いと思います。理由は、有形固定資産の償却費は設備投資という事業継続に必須の費用を各年に割り振っているものなので、キャッシュ創出に必要な費用と認識していることによります。

M&Aモデル - 調整後純利益

EPSの比較を行う

調整後純利益を算出したら、買収前後でのEPSの変化を比較します。このモデルではanalysisというシートで計算を行っています。

このモデルでは2つの比較を行っています。1つは調整前EPSの比較、もう1つは調整後EPSの比較です。企業の価値という意味でより実態に近いのは調整後EPSですが、会計上のEPSも参考として計算しておくとよいと思います。

調整前のEPSは、ISで計算した親会社の所有者に帰属する純利益を希薄化後発行済株式総数で割ることで算出できます。

一方、調整後EPSは、先ほど計算した調整後純利益を希薄化後発行済株式総数で割ることで算出できます。A社単独の調整後純利益はまだ計算していないので、A社単独調整後EPSの中で、純利益から無形固定資産の償却(税引後)を控除することで調整しています。

こうして計算した買収前後のEPSを比較したのが、EPS変化の項目です。この項目がプラスであれば買収によって価値が増加すると予想され、マイナスであれば価値が減少すると予想されます。

必要追加シナジーというのは、EPS変化がマイナスの場合に、あといくらシナジーが創出できればEPS変化がゼロになるかというシミュレーションを行っているものです。計算方法は、買収前後のEPSの差分に対して発行済株式総数を乗じることで純利益がいくら増加する必要があるかを計算し、その値を税引前に直す(=「1-税率」で割り返す)ことで行っています。

M&Aモデル - EPS分析

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