今回からは、M&Aモデルという買収する側と買収される側2社を統合して各種インパクトを計算するモデリングを解説します。M&Aモデルは、2つの会社それぞれのオペレーティングモデルを作成してから2社の財務諸表を統合することになるので、オペレーティングモデルを理解した上での応用編になります。
M&Aモデルの用途を理解する
M&Aモデルで分析できることを理解する
DCFモデルでは、買収対象企業の将来キャッシュフローを現在価値に割り引くことで、買収対象企業の価値を計算します。
一方、M&Aモデル自体では買収対象企業の本源的価値を計算することはなく、買収に対して特定の買収プレミアムを支払った場合における、買収する側の企業のEPS変化、資金調達方法の変化による買収へのインパクト、買収金額から逆算される必要シナジーレベル、持分の希薄化レベル等をシミュレーションします。
つまり、DCFとM&Aモデルを組み合わせることで、DCFによって算出した企業価値によって買収した場合における、買収する側の企業への財務インパクト等を分析することができます。こうすることで、より多面的に買収是非の議論を行うことができます。
~M&Aモデルによる主な分析~
- 買収プレミアム分析
- 資金調達シナリオ分析(キャッシュ/株式比率)
- 買収後の安全性分析
- EPSインパクト分析
- シナジー分析
- 株式希薄化分析
- 連結財務諸表分析
M&Aモデルの想定ユーザーとは?
以上の説明からご理解いただけると思いますが、M&Aモデルは買収を検討している企業にとって有用な分析となります。フィナンシャルアドバイザーを雇っていれば、アドバイザーが詳細な分析をしてくれることになりますが、企業でM&Aを担当されている方についても、M&Aモデルを理解することが社内説明の説得力向上につながると思います。
また、売却を考えている企業およびアドバイザーにとっても、想定売却価格を検討するうえでM&Aモデルは有効です。
加えて、M&Aを行うか自前で設備投資をして成長していくかなどの戦略的オプションを検討する際にも、M&Aモデルを使うことで、他のオプションとの費用対効果を比較できるようになります。言い換えれば、いくらを使ってどれだけEPSを増加させられるかを戦略オプション毎に横比較できることになるので、企業の意思決定上有効な分析となります。
M&Aモデル構築22ステップを知る
M&Aモデル構築はオペレーティングモデルとLBOモデルを学習した後の応用編
M&Aモデルでは、2社分のオペレーティングモデルを作成することになるため、オペレーティングモデルの理解が必須になります。
LBOモデルの理解は必須ではありませんが、資金調達と資金使途の計算など、LBOモデルと共通する項目も多数あるので、LBOモデルを理解しているとM&Aモデルの理解が早くなると思います。
このサイトで公開しているモデルの学習順序は、お読みいただいているユーザーのニーズ次第ではありますが、学習の難易度や関連性からすると、DCFモデル→LBOモデル→M&Aモデルの順番がお勧めです。
M&Aモデル構築22のステップ
他のモデル解説と同様、最初に構築のステップをお示しします。ただし、現時点で各ステップの内容を理解する必要はありません。自分でモデルを構築する際に、このステップを参照することで、間違いや抜け漏れ等が減ると思いますので、振り返りとして使用してください。
~M&Aモデル構築22のステップ~
- 買い手と売り手のオペレーティングモデルを作成する
- 買い手と売り手の株式価値・企業価値情報を作成する
- 希薄化インパクトを計算する
- 買収ファイナンス等の取引コストとPPAの条件を設定する
- 循環参照・リファイナンス・シナジーのスイッチ と、業績・ファイナンスのケースを作成する
- 資金調達と資金使途を計算する
- のれんを計算する
- フェアバリュー調整と税効果を計算する
- 買収ファイナンスの返済スケジュールと負債発行費用の償却を計算する
- シナジーを計算する
- 買い手の新株発行後発行済株式総数を計算する
- 買収直後の合算BSを作成する
- 合算ISを作成する(ただし、利息と税は空欄のまま)
- 親会社株式の変動と運転資本を計算する
- 合算BSを作成する(ただし、キャッシュと短期借入金は空欄のまま)
- 合算CFを作成し、期末キャッシュをBSの現金と短期借入金にリンクさせる(この時点でBSがバランス)
- 利息と税額を計算し、ISにリンクさせる
- EPS分析を行う
- 株式交換比率を計算する
- 安全性分析を行う
- 資金調達シナリオ分析を行う
- 買収プレミアム分析を行う
では、次回から各ステップについて解説していきます。
モデルのダウンロード
M&Aモデルの解説は、下のリンクからM&Aモデルをダウンロードして、エクセルでモデルを参照しながら読むと理解しやすいと思います。