財務モデリングにおいて、EBITDAとEVの関係をきちんと理解しておかないと、株式価値の過大評価や過小評価など知らないうちに計算間違いをしてしまいます。今回は、EBITDAとEVの正しい理解と間違いやすいポイントについて解説します。

DCF法におけるEBITDAの定義

最初に、コーポレートファイナンス、特に財務モデリングにおけるEBITDAの定義を解説します。以下は、DCF解説14で説明したことの再掲になりますが、とても重要なポイントなので、もう一度解説します。

DCF法におけるEBITDAの定義はネットに書かれている定義と異なる

「EBITDA 定義」とネット検索すると、多くの検索結果がヒットします。ほとんどの定義は「税引前利益+支払利息+減価償却費=EBITDA」といった内容だと思います。この定義はEBITDAの一般的な定義としては間違っていません。正しいです。ただし、DCF法におけるEBITDAの定義としては不十分なのです。

DCFにおけるEBITDAは、以下の3つのCを全て満たす利益だけをカウントします。

~EBITDAの3つの条件(3つのC)~

  • その会社の本業からの収益であること(=Core)
  • その事業が継続していること(=Continuing)
  • その事業を支配していること(=Controlled)

EBITDAの定義その1(Core)

EBITDAはその会社の本業の収益力だけを計算しますので、営業外収益に本業以外の収益が入っていたら、それはEBITDAには入れてはいけません。具体例としては、本業が不動産ではない会社が、遊休不動産を賃貸して得た収入が挙げられます。

なぜ本業以外の収益を考慮しないのかというと、企業価値(EV)は企業の本業における価値を表し、そこに本業以外の事業や資産の価値を加えたり、負債を引いたりして株式価値を算出します。その際に、EVの計算に本業以外からの収益を考慮してしまうと、EVで本業以外の収益を考慮したうえで、更に株式価値の計算でも本業以外の資産価値を考慮してしまうので、ダブルカウントしてしまうリスクがあるためです。

もちろん、EBITDAに本業以外の収益を含めた場合は、企業価値から株式価値を算出する際の調整で本業以外の事業価値の調整を行わなければよいのですが、それも厳密には正しい計算とは言えません。というのは、DCFで用いる割引率(WACC)は本業のみにしか使えないためです。小売業のWACCと不動産業のWACCは本来異なるのに、遊休不動産からの収益を小売業のWACCで割り引くことは正しい計算ではありません。

EBITDAの定義その2(Continuing)

EBITDAは、その企業の将来の業績予想から企業の現在価値を算出するために使われます。なので、将来継続しない収益や費用はカウントしません。リストラ費用などの一時費用や、売却や清算することが決まった事業は、財務諸表に必ず記述されるのでそれらは除外しなければなりません。仮に一時費用を除外しない場合、EBITDAが本来よりも小さくなってしまい、結果として現在価値が過小評価されてしまいます。

EBITDAの定義その3(Controlled)

定義その1とも関連しますが、EBITDAはその会社自体が支配している本業しか考慮しません。なので、連結されていない関連会社(株式持分が20%以上かつ50%未満)や、投資(持分20%未満の投資)からの収益は除外します。支配していない会社には限定的な意思決定しか及ぼせませんので、関連会社から生じる収益はその企業の本業の価値とは認識せず、企業価値から株式価値への変換のところで考慮します。ただし、関連会社ではあるものの、実質的には本業であるという事情がある場合には、EBITDAに含むケースもあり得ますので、最終的には企業の実態に応じて判断することになります。

EBITDAとEVの計算で間違いやすいポイント

ここまでのEBITDAの定義をきちんと理解できれば、EBITDAとEVの計算間違いは起こりにくいと思いますが、理解があいまいだと以下のような間違いが起こりがちです。

間違いその1:EBITDAの計算に持分法適用会社からの利益を含めてしまう

EBITDAは本業(Core, Continuing, Controlledの全てを満たした事業)しかカウントしません。もし、持分法適用会社からの利益をEBITDAに含めてしまうと、前述したように異なる業種を同じWACCで割り引いてしまうリスクや、EVから株式価値への変換で有価証券を加算してしまい、結果として持分法適用会社の価値をダブルカウントしてしまうリスクが生じます。

間違いその2:株式価値を計算する際に持分法適用会社の価値を考慮し忘れる

EVから株式価値を計算する際に、ネットデットという1行で調整を行っているモデルを見かけることがあります。計算さえ合っていればこれ自体は間違ったやり方ではありませんが、この場合、ネットデットには借入から現金及び現金同等物を差し引いた純有利子負債だけではなく、持分法適用会社の投資持分や被支配持分等も含めなければなりません。

持分法適用会社の投資持分は固定資産に計上されていることや、ネットデットという言葉から連想されにくいことなどから、考慮し忘れるケースを何度か見たことがあります。結果として、株式価値が過小評価されてしまうことになりますが、EBITDAやEVに含まれているものをきちんと理解できていれば、このような計算ミスは起こりにくいと思います。

なお、絶対に持分法適用会社からの利益をEBITDAに含めてはいけないということではなく、外資規制で支配権を取れないが、本業と一体的に事業を行っている場合など、ケースバイケースでEBITDAに含むこともあります。その場合には、説明資料の注釈等にきちんと明記しておくことで誤解を生じさせないようにすることが大切です。