今回からは、財務モデリングの中でも、プライベート・エクイティ・ファンドなどの金融投資家に用いられることが多いLBOモデル(レバレッジド・バイアウト・モデル)を解説します。LBOモデルの作成方法に入る前に、LBOモデルの概要について説明します。

レバレッジド・バイアウト(LBO)を理解する

LBOはPEファンドなど金融投資家が主に用いる買収手法

LBOは買収対象会社の資産やキャッシュフローを用いて負債を調達することにより、少ない元手(株式)で大きな買収を行う手法です。この辺の概要は他のサイトでも詳しい説明があるのでここでは省略しますが、モデルを構築するうえで知っておいた方がよいLBOを用いる金融投資家の特徴について説明します。

~LBOを使う投資家の特徴~

  1. 買収した企業の想定保有期間は3~5年間程度が一般的
  2. 3~5年後には、買収した企業を売却するかIPOすることで利益を確定させる
  3. LBOによる投資のリターン目線は20%程度

想定保有期間が3~5年となっているには理由があります。PEファンド等でリターンの目線として用いられているIRRは複利でのリターンを計算するので、利益金額で見ると加速度をつけて成長していかないとIRRを維持・上昇させることはできないため、あまり長く保有しすぎると確定した利益金額は大きくなっても、IRRは低減する傾向にあるということが挙げられます。

ただし、売却が想定通りにできるかはその時の買収企業の状況や外部環境次第のところもあるので、実際の保有期間は5~7年程度になる場合も多いと思います。

LBOモデルの活用方法

上で説明したように、LBOモデルはPEファンド等が企業を買収する際に使う手法なので、当たり前ですがLBO投資を行うPEファンドやその財務アドバイザーである投資銀行によって用いられます。

これに加えて、LBOモデルの活用方法として、事業投資家が入札方式の買収案件に参加する場合に、競合している金融投資家の入札価格の目線を知るために使うこともできます。世の中のPEファンドのリターン目線は概ね同程度ですので、金融投資家が提示できる買収価格の上限を試算することで、金融投資家に勝つための買収金額の目線感を知ることができます。

LBOの種類を理解する

LBOモデルを構築するうえでは、どの種類のLBOかによる違いはほとんどありませんが、参考までに様々なLBOの種類について簡単に説明します。

~LBOの種類~

  1. スポンサー・バイアウト:PEファンドなどの金融投資家が単独で買収対象企業を買収する
  2. クラブ・ディール:複数の金融投資家で買収対象企業を買収する
  3. 株式非公開化(Public to Private、P to P):上場会社をTOBで買収し、株式を非公開化する
  4. マネジメント・バイアウト(MBO):現在の経営陣による買収
  5. マネジメント・バイイン(MBI):外部の経営陣による買収
  6. リキャピタライゼーション:会社が資本効率を高めることなどを理由に負債を調達し、その資金で自社株を購入する(=負債比率を高める)

LBOの種類は、全てのディールが上記のどれか1つだけに該当するというわけではなく、スポンサー・バイアウトによって株式非公開化するケースもあります。また、MBOやMBIでも、経営陣が全ての株式を購入できるほどの資金を持っているとは限らないので、クラブ・ディールかつMBOまたはMBIとなるケースもあります。

リキャピタライゼーションは、企業自身が負債を発行することによって自社株買いをするというものなので、一般的な買収のイメージとは異なると思いますが、LBOの1つと位置付けられることが多いと思います。

いずれの種類でも、企業を買収する(=株式を取得する)ために負債を活用することがLBOの特徴です。

LBOの買収対象となる企業の6つの特徴を理解する

理論的にはLBOはどんな企業に対しても行うことができますが、実際にはLBOの対象となりやすい企業の特徴があります。

~LBOの対象となる企業の特徴~

(1)キャッシュ創出力が高い

買収した企業のキャッシュフローによって負債を返済することになるので、安定してキャッシュを創出でき、設備投資や研究開発投資がそれほど大きくない企業が好まれます。

(2)収益が安定している

仮に直近の収益が安定していても、少数の大きな顧客に収益の大半を依存していたり、景気サイクルによる需要変動が大きかったりすると、将来の収益が安定せず、LBOの負債返済が滞ることになるので、収益の安定性が高い企業が好まれます。

(3)成長の可能性がある

その企業自身に自律成長の余地がある場合や、その企業を買収後にさらに別の企業を買収する(このような買収をボルト・オンといいます)ことで企業価値を高められる場合には、将来の売却価格が高まるので、LBOに向いています。

(4)コスト削減など業務効率化の余地がある

非効率なオペレーションを行っているなど改善の余地がある場合、短期間での利益向上により売却価格を高められるので、LBOに向いています。

(5)優秀なマネジメントチームの存在

LBOを用いるのは主に金融投資家なので、日々の事業運営を投資家自身が行うことは基本的にはありません。なので、信頼できるマネジメントの存在がないと、買収しても企業価値を高められる可能性が下がります。ただ、現在のマネジメントが優秀でなくても、外部から優秀なマネジメントを連れてこられる(MBI)のであれば、LBOは可能です。

(6)売却やIPOの展望を描きやすい

金融投資家は買収した企業を売却もしくはIPOすることで利益を上げるので、売却が困難と思われる企業はLBOには向きません。例えば、上場できない業種(パチンコ産業など)や、有力な買い手候補を見つけにくい業種(規制産業など)はLBOを手掛けづらいと言えます。

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