コンプス分析とは何か

類似企業比較分析(Comparable Company Analysis、CCA)とは、評価対象企業と事業内容・規模・収益性が類似した上場企業群のバリュエーションマルチプルを参照して、対象企業の価値を推定する手法です。「市場が類似企業をどう評価しているか」を基準にするため、市場の実態を反映したバリュエーションが得られます。

M&Aの企業価値分析では、DCF分析・類似企業比較分析(CCA)・類似取引比較分析(Comparable Transaction Analysis(CTA)やPrecedent Transaction Analysis(PTA)と呼ばれます)の3手法をフットボールチャートで並べて提示するのが標準です。CCAはその中で「現在の市場水準」を示す役割を担います。

類似企業の選定方法

選定基準

類似企業の選定は分析の質を左右する最重要ステップです。主な選定基準は以下の通りです。①事業内容:同一セクター・同一製品カテゴリ。②地理的市場:同一国・地域の企業を優先。③規模:売上高・時価総額が近い企業。④収益性:EBITDAマージンが近い企業。⑤成長フェーズ:成熟企業vs成長企業の区別。

完璧に類似した企業は存在しません。通常5〜15社を選定し、外れ値(バリュエーションが著しく高い・低い企業)を除外して中央値・平均値を計算します。選定した企業とその理由をクライアントに説明できることが重要です。

主要なバリュエーションマルチプル

EV/EBITDA(最重要マルチプル)

EV/EBITDAはM&A実務で最も広く使われるマルチプルです。EV(Enterprise Value:企業価値)÷EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)で計算します。資本構成・税率・償却方針の違いを除外できるため、異なる国・会計基準の企業を比較しやすいのが特徴です。

EV/EBITDAの計算:EV=時価総額+純有利子負債(有利子負債-現預金)+少数株主持分+優先株。EBITDAはP/LのEBIT+D&Aで計算します。LTM(Last Twelve Months:直近12ヶ月)またはNTM(Next Twelve Months:翌12ヶ月予測)のEBITDAを使います。アナリストによる市場予測データが存在する大企業を対象とする場合は、NTM EBITDAを使う方が一般的ですが、市場予測データがない場合はLTMを使用します。

その他の主要マルチプル

EV/EBITはEBITDA同様によく使われます。D&Aが少ない業種(サービス業など)ではEV/EBITDAとほぼ同じ結果になります。EV/Revenueは赤字企業や創業期企業の評価に使われます。P/E(株価収益率)は株主視点のマルチプルで、金融機関・消費財セクターでよく使われます。EV/EBITDAより資本構成の影響を受けやすいため、M&A実務ではEV/EBITDAが優先されます。

類似企業比較分析のExcel実装手順

データの収集と整理

各類似企業について以下のデータを収集します。市場データ(株価・発行済株式数→時価総額)、有利子負債(短期・長期借入金・社債)、現預金、少数株主持分、優先株、財務データ(LTM/NTM EBITDA・EBIT・Revenue・EPS)。

Excelの構成例:縦に各類似企業を並べ、横にEV計算の各要素(時価総額、+有利子負債、-現預金、=EV)とマルチプル(EV/EBITDA、EV/EBIT、P/E)を並べます。最下行に中央値・平均値・25パーセンタイル・75パーセンタイルを計算します。

対象企業への適用

類似企業群のEV/EBITDAの中央値(例:8.0x)を対象企業のEBITDAに掛けてEVを算出します。対象企業のEBITDA 100億円 × 8.0x = EV 800億円。ここから純有利子負債を引いて株式価値を計算します。EV 800億円 - 純有利子負債 200億円 = 株式価値 600億円。

マルチプルのレンジ(類似企業の25〜75パーセンタイルや平均値・中央値±1倍など)を使ってバリュエーションのレンジも計算します。このレンジがフットボールチャートの「CCAレンジ」として表示されます。

類似企業比較分析の実務的な注意点

マルチプルの正常化が必要です。類似企業のEBITDAに一時的な費用(リストラ費用・訴訟費用など)や収益(資産売却益など)が含まれる場合、EBITDAを正常化(Adjusted EBITDA)して比較します。正常化なしでは歪んだマルチプルになります。

コントロールプレミアムは含まれていません。CCAのマルチプルは上場株式の取引価格(マイノリティベース)を基準にしているため、買収時に支払うコントロールプレミアムが含まれていません。コントロールプレミアムを直接観測することは困難ですが、マジョリティ取得時の取引金額を対象とするPrecedent Transaction分析とマルチプル比較することで、コントロールプレミアムの水準を間接的に確認することができます。

まとめ

類似企業比較分析は「今の市場がどう評価しているか」を示す実務の必須ツールです。類似企業の選定・EV/EBITDAの正確な計算・正常化EBITDAの使用・マルチプルのレンジ表示がポイントです。DCFやPrecedent Transaction分析と組み合わせてフットボールチャートに落とし込み、複数の視点から企業価値を提示することが、IBDプロフェッショナルの標準的なアプローチです。