今回からは、プロジェクト・ファイナンスや不動産ファイナンス、レバレッジド・バイアウト(LBO)ファイナンス等で使われるキャッシュ・スイープ(Cash sweep、余剰資金強制弁済条項)というモデルを解説します。DCFのオペレーティング・モデルの変化形ですが、モデルの組み方が少しだけ複雑になります。

キャッシュ・スイープ(Cash sweep、余剰資金強制弁済条項)モデル構築方法を概観する

キャッシュ・スイープモデルは負債の返済方法に特徴がある

キャッシュ・スイープモデルとは、余った現金を負債の返済に強制的に当てていくことで、負債を加速的に減らしていくモデルになります。

プロジェクト・ファイナンスや不動産ファイナンス、レバレッジド・バイアウト(LBO)ファイナンスは、投資に際して投資元本(エクイティ)に負債を加えることで、レバレッジを利かせて投資元本よりも大きな投資をするためのファイナンスとして使われます。

このようなファイナンスを使う場合、そのプロジェクトや企業は余った現金を株主に配当する前に、負債の返済を優先させるという条項が付いているケースがほとんどです。この負債返済の優先のことを、余剰資金強制弁済条項、またはキャッシュ・スイープと呼びます。

余った現金をどのように取り扱うかでモデルの作り方が変わってきますので、今回からはこのキャッシュ・スイープモデルの作り方をエクセル付きで解説します。

キャッシュ・スイープモデル構築のための12のステップ

オペレーティング・モデルを構築する際も12のステップがありましたが、キャッシュ・スイープモデルにも12のステップがあります。オペレーティング・モデルと似ている部分も多いのですが、ちょっとしたステップの違いで計算ミスにつながることがあるので、今回も1つずつステップを追っていくことをお勧めします。

リンク:オペレーティング・モデル構築のための12のステップ(壁道式:DCF実践2)

~キャッシュ・スイープモデル構築12のステップ~

  1. エクセルの反復計算をオフにする
  2. 損益計算書(IS)を構築する(ただし、減価償却、受取・支払利息は空欄のまま)
  3. 設備投資や資本等(mixed account)と運転資本を計算し、減価償却をISにリンクさせる
  4. 貸借対照表(BS)を構築する(ただし、現金、短期借入金、長期借入金は除く)
  5. BSの各項目をキャッシュフロー計算書(CF)の項目毎(営業、投資、財務)に分類する(ただし、現金は除く)
  6. CFを構築し、負債返済に充当可能なキャッシュフローを計算するとともに、CFの期末現金をBSにリンクさせる(ただし、CFの短期借入金と長期借入金は空欄のまま)
  7. キャッシュ・スイープのついた負債の返済スケジュールと受取・支払利息を計算する
  8. 期末の負債残高をBSにリンクさせ、BSの負債残高前年比をCFにリンクさせる(この時点でBSの資産と負債がバランスします)
  9. 受取・支払利息をISにリンクさせる(これにより循環参照が発生します)
  10. エクセルの反復計算をオンにする
  11. 循環参照のオン・オフができるスイッチを構築する
  12. 構築したモデルをチェックする

オペレーティング・モデル構築と比べると、負債の返済スケジュールを計算する前に、BSとCFを構築するというように順序が変わっています。これは、キャッシュ・スイープモデルではCFで計算された余剰現金を使って負債を加速的に返済していくという流れになるため、CFを先に作っておく必要があるためです。

1つ留意していただきたいのは、ステップに書かれていることはオペレーティング・モデルと同じか似ていても、エクセル上で数式の組み方が異なる部分がいくつかありますので、読み飛ばして勘違いしないようにしてください。

キャッシュ・スイープモデルのエクセル公開

次回以降の解説を読む際に、以下からモデルをダウンロードしてください。

ダウンロードページ

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