PEファンドの面接で定番となっているのがPaper LBO(ペーパーLBO)です。ExcelなしでLBO投資のリターンを概算する口頭試験で、紙とペン(電卓すら不可の場合もあります)だけを使い、5〜10分程度でMOICとIRRの概算値まで辿り着くことが求められます。
問われているのはExcelの操作ではなく、LBOのメカニズムが頭の中に構造として入っているかどうかです。本記事では、Paper LBOの典型的な出題形式、解答の5ステップ、そして実際の例題を使ったウォークスルーを解説します。
なお、Paper LBOは面接のためだけの計算ではありません。実務でも、詳細な分析に入る前に対象企業がLBO投資の対象になりうるかの当たりを付ける簡易計算として使われています。当サイトではExcelで再現したPaper LBOモデルの実例も公開しているので、本記事の手順とあわせて参照すると理解が深まります。
Paper LBOの典型的な出題形式
面接官から口頭またはメモで、次のような前提が与えられます。数字は暗算しやすいよう丸められているのが普通です。
| 項目 | 例題の前提 |
|---|---|
| 直近EBITDA | 100 |
| 買収マルチプル | EV/EBITDA 5.0倍 |
| レバレッジ | EBITDAの3.0倍(金利5%) |
| EBITDA成長 | 年10ずつ増加(5年後に150) |
| FCF転換 | 毎年のフリーキャッシュフローは全額返済に充当 |
| Exit | 5年後に5.0倍で売却 |
解答の5ステップ
Paper LBOは、どんな前提が来ても同じ手順で解けます。手順を型として覚えてしまうことが最大の対策です。
ステップ1:買収価格と資金調達を確定する(エントリー)。EV=EBITDA×マルチプル、負債=レバレッジ倍率×EBITDA、エクイティ=EV−負債。
ステップ2:保有期間のEBITDAを並べる。成長前提に従って各年のEBITDAをメモします。
ステップ3:毎年の返済額を概算し、Exit時の負債残高を出す。簡便法として「EBITDA−利息−税金−設備投資・運転資本=返済原資」を年ごとにざっくり計算し、累計を初期負債から引きます。
ステップ4:Exit時の株式価値を出す。Exit EV=Exit年EBITDA×Exitマルチプル、株式価値=Exit EV−残存負債。
ステップ5:MOICを計算し、IRRに変換する。MOIC=Exit株式価値÷投資エクイティ。IRRは暗算変換の目安を使います(後述)。
例題のウォークスルー
先ほどの前提で実際に解いてみます。
エントリー:EV=100×5.0=500。負債=100×3.0=300。エクイティ=500−300=200。
返済原資の概算:各年のEBITDAは110、120、130、140、150。利息は残高300に対して約15からスタートし返済とともに減少。税金と設備投資・運転資本を合わせてEBITDAの約半分が消えると置くと、返済原資は年40〜60程度。5年累計でおよそ250と概算します(面接ではこの程度の丸めで十分です。丸めた根拠を口頭で説明できることの方が重要です)。
Exit時の負債:300−250=50。
Exit:Exit EV=150×5.0=750。株式価値=750−50=700。
リターン:MOIC=700÷200=3.5倍。5年で3.5倍はIRR約28%です。
回答の最後に、リターンの源泉を一言添えられると評価が上がります。この例では、EBITDA成長(100→150)と債務返済(300→50)がリターンを牽引しており、マルチプルは5.0倍で不変、つまりマルチプル拡大に依存しない健全なリターン構成だと説明できます。
MOICからIRRへの暗算変換
5年保有を前提とした場合の対応表は暗記しておきましょう。IRRの数理的な背景はIRRの解説記事で確認できます。
| MOIC(5年) | IRRの目安 |
|---|---|
| 1.5倍 | 約8% |
| 2.0倍 | 約15% |
| 2.5倍 | 約20% |
| 3.0倍 | 約25% |
| 3.5倍 | 約28% |
| 4.0倍 | 約32% |
覚え方のコツは「5年で2倍=15%、3倍=25%」の2点をアンカーにして、間を補間することです。保有期間が変われば当然この対応は変わるので、7年なら2倍=約10%といった具合に、72の法則(72÷利回り≒資金が2倍になる年数)で検算する癖をつけると安心です。
面接官が見ているポイント
第一に、手順の構造化。行き当たりばったりに計算を始めるのではなく、「まずエントリーを固めます」と宣言してから進む受験者は、それだけで実務経験の質が伝わります。第二に、丸め方の合理性。細かい端数にこだわるより、どこを簡略化したかを自覚的に説明できることが重要です。第三に、リターン源泉の分解。MOICを出して終わりではなく、成長・返済・マルチプルのどれが効いたのかまで語れると差がつきます。
まとめ:型を覚え、フルモデルで裏打ちする
Paper LBOは5ステップの型を覚えれば確実に解けるようになりますが、型の暗記だけでは深掘り質問(なぜFCFの半分が消えるのか、金利が上がったらどうなるか)に耐えられません。土台として、Excelで実際にLBOモデルを組んだ経験があるかどうかが、回答の厚みを決めます。
当サイトではLBOモデルをゼロから構築する解説を公開しており、練習版のExcelファイルは無料でダウンロードできます。フルモデルを一度自分の手で組んでおけば、Paper LBOの簡便計算がフルモデルのどの部分を省略したものかが見え、どんな深掘りにも自分の言葉で答えられるようになります。
また、PEファンドや投資銀行の選考では、Paper LBOと並んで、Excelで制限時間内にモデルを組む「モデリングテスト」も課されます。実技試験の時間配分と採点ポイントは財務モデリングテスト対策の記事で解説しています。
さらに、選考本番と同じ形式・同じ制限時間での腕試しには、模擬テスト4セット(当日型60分・120分、持ち帰り型3日・1週間)に解答モデル・採点基準・想定問答60問を収録したモデルテスト実戦パックをご活用ください。当日型60分のLBO基礎セットは、Paper LBOで押さえた構造をExcelのフルモデルとして再現する、本記事のちょうど次のステップにあたります。