LBOモデルを初めて組もうとすると、多くの人が「どこから手をつければいいのか」で止まります。デットスケジュール、Sources & Uses、IRR計算と部品の名前は知っていても、それらがどう繋がって1つのモデルになるのかが見えないからです。

本記事では、LBOモデル全体を5つの構成要素に分解し、資金調達の入口であるSources & Usesから出口(Exit)のリターン計算まで、お金の流れに沿って俯瞰します。細部に入る前に全体の地図を持っておくと、LBOモデルの本編解説での学習効率が大きく変わります。

LBOモデルの5つの構成要素

LBO(Leveraged Buyout、レバレッジド・バイアウト)とは、買収資金の大部分を借入で調達して企業を買収する手法です。PEファンドが用いる典型的な投資スキームであり、そのモデルは次の5つの部品で構成されます。

構成要素役割
1. 取引前提とSources & Uses買収価格と資金調達構成を決める「入口」
2. 業績予測(オペレーティングモデル)投資期間中のEBITDAとフリーキャッシュフローを予測する
3. デットスケジュール各借入の利息計算と返済を期ごとに追跡する
4. Exitとリターン計算売却時の株式価値からIRR・MOICを算出する「出口」
5. 感度分析マルチプルやレバレッジを動かしてリターンの幅を確認する

お金の流れで言えば、「いくらで買い、どう調達するか(1)」「保有期間中にいくら稼ぎ(2)」「稼いだ現金でどれだけ借金を返し(3)」「いくらで売って、手元にいくら残るか(4)」という物語です。この物語の筋が通っていれば、LBOモデルの骨格は完成しています。

Sources & Uses:すべてはここから始まる

Sources & Uses(ソーシズ・アンド・ユーシズ)は、「必要な資金(Uses)」と「その調達方法(Sources)」を一覧にした表です。LBOモデルの起点であり、この表の合計が一致していなければモデルは先に進めません。

Uses(資金使途)

資金使途は主に3つです。第一に、対象会社の株式購入額。第二に、既存借入のリファイナンス(LBOでは既存債務を新しい借入に置き換えるのが通常です)。第三に、取引費用(アドバイザリーフィー、デューデリジェンス費用、資金調達手数料など)。

Sources(資金源泉)

調達側は、シニアローン(タームローン)、劣後債・メザニンなどの借入トランシェと、PEファンドが拠出するスポンサーエクイティで構成されます。実務では、借入額は「EBITDAの何倍まで」というレバレッジ倍率で先に決まり、エクイティは残差(プラグ)として計算されるのが基本形です。

数値例で見てみましょう。EBITDA 100億円の会社を買収EV 800億円(EV/EBITDA 8.0倍)で買収し、借入をEBITDAの5.0倍調達するケースです。

Uses金額Sources金額
株式購入額(EV−既存純有利子負債200)600億円シニアローン(EBITDA×4.0倍)400億円
既存債務リファイナンス200億円メザニン(EBITDA×1.0倍)100億円
取引費用30億円スポンサーエクイティ(プラグ)330億円
合計830億円合計830億円

この時点で「投資したエクイティは330億円」という基準値が確定します。以降のモデルはすべて、この330億円が何倍になって返ってくるかを計算するためにあります。

業績予測とフリーキャッシュフロー:返済の原資を作る

2つ目の部品は、投資期間(通常5年程度)の業績予測です。売上からEBITDA、税金、設備投資、運転資本増減を経て、債務返済に使えるフリーキャッシュフローを各期について計算します。

ここで重要なのは、LBOモデルの業績予測はDCFモデルほど精緻な価値評価を目的としていない、という点です。目的は「毎期いくら現金が生まれ、いくら返済に回せるか」の把握です。したがって、EBITDA成長率、EBITDAマージン、設備投資の対売上比率といった主要ドライバーを保守的に置くことが実務の作法になります。PEファンドの投資委員会では、強気の成長シナリオよりも「ダウンサイドでも債務を返せるか」が必ず問われます。

デットスケジュール:モデルの心臓部

3つ目の部品が、各借入トランシェの期首残高・利息・返済・期末残高を追跡するデットスケジュールです。約定弁済(決められた返済)に加えて、余剰キャッシュフローを繰上返済に充てるキャッシュスイープの仕組みを組み込むのが標準形です。キャッシュスイープの構造はキャッシュスイープモデルの解説で詳しく学べます。

デットスケジュールが回り始めると、「利息は期中平均残高で計算したいが、期末残高は返済額に依存し、返済額は利息に依存する」という循環参照の論点にも直面します。ここはLBOモデルで最初につまずきやすいポイントなので、構造を理解した上で対処法を選ぶことが大切です。循環を設計でコントロールする方法は循環参照スイッチの解説で詳しく説明しています。

Exitとリターン計算:投資の答え合わせ

最後の部品が出口です。Exit時の企業価値は「Exit年のEBITDA × Exitマルチプル」で計算するのが標準です。そこからExit時点の純有利子負債を差し引いた残りが、スポンサーの手にする株式価値になります。

先ほどの例で、5年後のEBITDAが130億円に成長し、Exitマルチプルを買収時と同じ8.0倍、5年間の返済で純有利子負債が500億円から250億円まで減少したとします。Exit EVは1,040億円、株式価値は790億円。投資額330億円に対して約2.4倍(MOIC 2.4x)、年率に換算するとIRRは約19%です。IRRとMOICの関係や計算方法はIRRの解説記事を参照してください。

この数値例から、LBOのリターンが3つの源泉(EBITDAの成長、マルチプルの変化、債務返済によるエクイティの積み上がり)に分解できることも見えてきます。どの源泉に依存したリターン設計なのかを説明できることが、モデルを「作れる」ことと「使える」ことの分かれ目です。

この増分460億円(790−330)を源泉別に分解すると、リターンの構造が見えます。

リターンの源泉計算寄与額
EBITDAの成長(130 − 100)× 8.0倍+240億円
マルチプルの変化8.0倍 → 8.0倍で不変0億円
デットの返済(デレバレッジ)500 − 250+250億円
取引費用エクイティに含めた30億円−30億円
増分合計790 − 330+460億円

この例ではマルチプルの寄与をゼロに置いています。買った倍率より高く売れる前提(マルチプル・エクスパンション)は自力ではコントロールできないため、投資検討では「マルチプル不変でもリターンが成立するか」を基本ケースとするのが規律ある作法です。紙とペンでこの計算を素早く回す訓練はPaper LBOの解説で扱っています。

感度分析:リターンの幅を確認する

5つ目の部品が感度分析です。単一のシナリオのIRRだけでは投資判断はできません。主要ドライバーを動かしたときにリターンがどの範囲で動くかを、データテーブルで一覧にします。先ほどの例で、Exit時のEBITDAとExitマルチプルを動かした場合のIRRはおおよそ次のようになります(簡略化のため、Exit時の純有利子負債は250億円で固定しています)。

IRR(概算)EBITDA 120億円EBITDA 130億円EBITDA 140億円
Exit 7.0倍約12%約15%約17%
Exit 8.0倍約17%約19%約21%
Exit 9.0倍約20%約23%約25%

見るべきはベースケースの19%ではなく、左上(ダウンサイド)の12%です。EBITDAが計画未達でマルチプルも縮小したときに許容できる水準か——PEファンドの投資委員会が最初に見るのはこの隅です。実務ではさらに、レバレッジ倍率や保有期間を動かした表も並べます。

全体を貫くチェックポイント

5つの部品を繋いだら、モデル全体の整合性を確認します。Sources & Usesの貸借一致、B/Sを作る場合は毎期の貸借一致、現金残高が最低必要水準(ミニマムキャッシュ)を割っていないか、リボルバーが意図せず恒常的に引かれていないか。これらのチェックを数式としてモデルに常駐させておくのがプロの流儀です。

まとめ:地図を持ってから細部へ

LBOモデルは、Sources & Usesで入口を固め、業績予測で返済原資を作り、デットスケジュールで借入を追跡し、Exitでリターンを答え合わせする、という一本の物語です。この地図を頭に入れた上で、実際にExcelで手を動かすと理解が一気に立体化します。

当サイトでは、投資銀行の実務水準のLBOモデルをゼロから作る解説を公開しており、練習版のExcelファイルは無料でダウンロードできます。本記事で全体像を掴んだ方は、ぜひ実際にモデルを組みながら学習を進めてみてください。

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