固定資産スケジュール(PP&Eスケジュール)は、設備投資(Capex)と減価償却(D&A)を通じて、P/L・B/S・CF計算書の3表すべてに触る部品です。ここが正しく組めていれば3表連動の半分は理解できたと言ってよく、逆にここが曖昧なままだとB/S不一致の温床になります。
本記事では、固定資産スケジュールの基本構造、Capexと減価償却それぞれの予測方法、ウォーターフォール方式の数値例、そしてDCFの終盤で必ず問われるステディステートの整合まで解説します。
本記事は、売上モデル(Revenue Build)、運転資本(NWC)のモデリングに続く、オペレーティングモデル構築の第3部品です。3表がどこで連動するかの全体像は3ステートメントモデルの設計思想で解説しています。
基本構造:ロールフォワードの型
固定資産スケジュールは、他のB/S項目と同じくロールフォワード(期首残高から期末残高への橋渡し)で書きます。
期末PP&E = 期首PP&E + 設備投資(Capex) − 減価償却費
この1行から、3表への接続が生まれます。減価償却費はP/Lの費用となり、CF計算書では非現金費用として足し戻される。CapexはP/Lには現れず、CF計算書の投資活動でマイナスになる。そして両者の差額がB/SのPP&E残高を動かします。「Capexは現金は出るが費用にならない、減価償却は費用になるが現金は出ない」という非対称が、この部品の本質です。
3表への配線図
| 項目 | P/L | CF計算書 | B/S |
|---|---|---|---|
| 減価償却費 | 費用として利益を減らす | 非現金費用として足し戻す | PPandE残高を減らす |
| 設備投資(Capex) | 現れない | 投資活動のマイナス | PPandE残高を増やす |
| 期末PPandE | − | − | 固定資産の残高になる |
1本のロールフォワードから3表それぞれに数字が配られる——この配線を頭に入れておくと、B/S不一致が起きたときも「どの線が切れたか」で原因を絞り込めます。
Capexの予測:対売上比率と投資の性質
Capexの標準的な予測方法は対売上高比率です。過去実績の比率を計算し、事業計画や業界水準と照らして将来の比率を置きます。ただし比率を機械的に横置きする前に、投資の性質を2つに分けて考えることが重要です。
維持Capex(メンテナンスCapex)は、現在の事業規模を保つために必要な更新投資で、減価償却費に近い水準になるのが目安です。成長Capexは、能力増強や新規出店など売上を増やすための投資です。大型投資の計画が分かっている場合は、比率ではなく金額を個別に積む方が正確です。M&Aのデューデリジェンスでは「Capexのうち維持分はいくらか」が必ず論点になります。維持Capexが大きい事業は、EBITDAが立派でもフリーキャッシュフローが薄いからです。
減価償却の予測:2つの方法
減価償却の予測には、簡便法とウォーターフォール方式があります。
簡便法は、減価償却費を対売上高比率または期首PP&E残高に対する比率で置く方法です。スピード重視の初期分析や、資産構成が安定している会社では十分に機能します。
ウォーターフォール方式(ビンテージ方式)は、既存資産の償却と、各年の新規Capexから生まれる償却を別々に計算して積み上げる方法です。各年のCapexを耐用年数で割った償却費が、投資した年から耐用年数分だけ階段状に積み上がっていきます。投資サイクルが大きく変動する会社や、精緻なモデルが求められる場面ではこちらを使います。
数値例:ウォーターフォールの組み方
耐用年数5年・定額法、各年のCapexが100、120、140と増えていくケースのウォーターフォールです。各年のCapexは翌年から償却開始(期央投資の簡便処理として初年度は半分償却する方式もあります)とします。
| 償却費の源泉 | 1年目 | 2年目 | 3年目 |
|---|---|---|---|
| 既存資産の償却 | 80 | 80 | 60 |
| 1年目Capex 100(÷5年) | − | 20 | 20 |
| 2年目Capex 120(÷5年) | − | − | 24 |
| 減価償却費合計 | 80 | 100 | 104 |
このウォーターフォールをロールフォワードに組み込むと、PPandE残高は次のように推移します(期首残高500、既存資産の償却は表の通り)。
| 項目 | 1年目 | 2年目 | 3年目 |
|---|---|---|---|
| 期首PPandE | 500 | 520 | 540 |
| (+)Capex | 100 | 120 | 140 |
| (−)減価償却費 | 80 | 100 | 104 |
| (=)期末PPandE | 520 | 540 | 576 |
減価償却費の行がウォーターフォール表の合計行とそのまま一致し、期末残高が翌年の期首に繋がる。この2枚の表が噛み合っていることが、固定資産スケジュールが正しく組めている証拠です。
構造は単純ですが、行と列が増えるため、Excelでは行に投資年・列に予測年を並べた三角形のマトリクスで組むのが定石です。既存資産の償却は、直近の償却実績と固定資産台帳(または有形固定資産の注記)から残存償却年数を概算して置きます。
実務の落とし穴:3つの確認ポイント
償却開始タイミングの慣行を統一する
新規Capexの償却をいつ始めるか(投資した年からフルに償却、翌年から開始、期央投資とみなして初年度は半分)は、モデルによって慣行が分かれます。どれを選んでも大勢に影響はありませんが、モデル内で混在させないこと、そして実績の固定資産台帳の水準と大きくずれないことが重要です。
実績年でチェック行を入れる
組んだ数式を実績年に当てはめ、計算上の減価償却費・期末残高が実際の開示数値と近い水準になるかを確かめるチェック行を入れます。ここが大きくずれる場合、耐用年数の前提か既存資産の償却スケジュールに誤りがあります。予測に入る前の30秒の検証が、モデル全体の信頼性を支えます。
無形資産・リースは別枠で考える
本記事で扱ったのは有形固定資産(PPandE)のスケジュールです。無形資産の償却は同じロールフォワードの型で別建てにするのが基本です。リース資産(使用権資産)の扱いは会計基準による論点が多いため、稿を改めて解説します。
ステディステートの整合:CapexとD&Aの関係
DCFモデルのターミナルバリューを計算する際、最終予測年は事業が定常状態(ステディステート)に達している必要があります。ここで必ずチェックすべきなのがCapexとD&Aの関係です。
永続的に低成長で巡航する会社なら、CapexはD&Aと同水準か、インフレと実質成長の分だけやや上回る程度に収束するはずです。最終年でCapexがD&Aを大きく上回ったままだと、成長投資を続けているのに成長率は低い、という矛盾した前提で永続価値を計算することになります。逆にCapexがD&Aを下回る前提は、資産を食い潰しながら永続するという不可能な前提です。ターミナルバリューは企業価値の過半を占めることが多いため、この整合チェックの影響は見た目以上に大きくなります。
まとめ:非対称を制する者が3表を制する
固定資産スケジュールの要点は、ロールフォワードの型、Capexの性質分解、償却のウォーターフォール、そしてステディステートでのCapexとD&Aの整合の4つです。費用と現金のタイミングがずれるこの部品を正確に組めれば、3表連動の理解は大きく前進します。
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